#14 なら、私は何のために!
「そう、だ」
俺は小説家だ。
他の作家がどのように物語を構成しているのか定かではないが、少なくとも俺の場合は、頭の中できちんと設定や登場人物、ストーリーの流れといったものを、独自のアルゴリズムに則って、整理整頓していく。それは、もう――モップで埃を拭き払っていくように。
「ならば!」
俺はモップ・ステップ・ジャンピングを振り回し、心を落ち着かせていく。無茶苦茶に振り回しているように見えるかもしれないが、実はロコの攻撃を全て受け止めていた。
どうだ、すごいだろう。
「頭がスッキリしてきた」
「何故です! 何故、攻撃が急に――当たらなくなって!」
「言っただろう。俺は――小説家だと」
ポイントカードをレジスターにスキャンする。再び特異点の力が集合して、奥義の準備が整った。今度は外さない。渾身の七連撃、そしてその後の十一連撃を――
「ズィーベン・エルフ!」
俺のモップ型太刀が、ロコが持つハンマーを切り刻み、粉砕した。
「そんな――一度のみならず、二度も!」
悔しがるロコが、無我夢中でレジスターにカードをスキャンし続ける。しかし、戦闘により特異点の力を使い切ってしまったのだろう。レジスターはエラー音声を吐き続けるだけであった。それでもロコはひたすらにカードをスキャンし続けた。
目に――涙を浮かべながら。ただ、ひたすらに。
「私はギャングスタになって――世界征服をするんです! 正直者が馬鹿を見ない世界を、作りたいのに! こんな、こんなところで――私は!」
「それがお前の世界征服か」
「そうですよ! 何か文句でもあるんですか!」
「この世界に、そもそも絶対の正義など存在しない」
俺はレジスターの引き出しにモップをぶち込み、シンギュラー・ポイントカードをポケットに収納しながら、この世界の真実を告げることにした。
「なら、私は何のために!」
「さあ? 何のために、だろうな。そう思うのなら――お前が作れよ、正義の世界を。お前が正義のギャングスタになって、世界を変えてみせろ」
「支離滅裂ですよ! あなたが何を言いたいのかよくわかりません!」
「おおっと。難解な言い回しは、時として誤解を招く可能性があるな。やはり俺には、向いていない。反省せねばならないな」
俺がこの少女に伝えたいことは、要するに他人様に迷惑を掛けるなということだ。
ロコがギャングスタを目指すことは大いに結構だ。応援してやっても良い。だが、それで誰かに迷惑が掛かるなら――俺の日常に支障が出るというのなら、その部分だけは認めない。だから彼女には悪ではなく正義のギャングスタになってもらう。
そんなものはない? だったら今この瞬間から、ロコが第一号だ。それで良い。
「悪の心を捨てる必要はないが、やはり悪行は良くない。悪行を遂行することは、お前が嫌いな『正直者が馬鹿を見る世界』を促進させる原因に他ならない」
ロコが悪いことをして迷惑を被る正直者がいたら、可哀想じゃないか。
「世界は価値観の原石だ。だからこそ、様々な衝突が絶えない。だが俺はその衝突の末に、磨き上げられた宝石のような世界が待っていると信じている」
「意味が、わからないです」
「わからなくていい。お前が疑問を抱いたこの瞬間こそが、対話の始まりを告げる証明となるのだから、今はそれでいい」
「まあ、なんとなくですが――あなたがムカムカの極みであることは再確認できました」
「え? 照れるなぁ」
「はぁ? どこが!」
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