#19 受けてみよっ、てね
俺とマイは早速、鍵の捜索に乗り出した。彼女から鍵の特徴を聞いたところ、キーホルダーが付いていることがわかったので、俺はその特徴を思い浮かべながら、辺りを見渡す。
「キーホルダーは、どんなヤツなんだ?」
「カボッチャマっていう、カボチャのキャラクターだよー」
「ああ、アレか」
カボッチャマ。教育テレビの夕方枠で放送されている、『ぱんぷきんぐだむっ!』というアニメの主人公だ。放送当初から根強い人気を誇る彼は、どうやらグッズ化されていたようだ。まあ、確かにカボッチャマは見ていて飽きないキャラクターデザインをしている。
俺はどちらかといえば、以前放送されていたぜんまいの侍のアニメが好きであったが。
「必勝! だんご剣! 受けてみよっ、てね」
「ジューイチ先生は、しばしばおかしなことを言うよねー」
おおっと、いけない。またモノローグが漏れていたようだ。それにしてもあのアニメ、ぜんまいの髷が生えた侍が主人公なのに、どうして必殺技が団子剣なのだろうか。団子刀だと語呂が悪いからか。うぅむ、大人の事情というヤツだな。
「まあ、それはそれとして」
「その言葉、現実で使う人初めて見たよー」
「あったぞ、鍵」
俺はガードレールの袖ビーム部分に引っかかっていた鍵を見つけた。ちゃんとカボッチャマのキーホルダーも付いている。誰か落とし物に気が付いた人が、この鍵を発見しやすいようにガードレールに掛けたのだろうか。真相は不明だが、ありがたいことだ。
「わー、見つけるの、早いねー」
「他者の探し物は、見つけるの早いんだよなぁ。自分の探し物は、いつまで経っても見つからないけど」
昔から、掃除の度に誰かの落とし物を見つけることが多かったな。なんか、落とし主の心理がわかってしまう。誰が、どこで、何を落としたか、その場所がわかってしまう。
思えば幼馴染のフェル姉の眼鏡も、よく俺が探していたような気がする。まあ、フェル姉本人とはあれっきり会ったことはないけど。元気だといいなぁ。
「フェル姉―?」
「俺の初恋の――げふんげふんっ! 幼馴染だよ! いいか? 幼馴染だよ!」
「なんでそんなに慌てているのー? 最初に何か言いかけなかったー?」
「キノセイデスネ」
「ふーん――ありがとうねー、鍵を見つけてくれてー」
「我が首領のご命令だからな。気にするな」
「ツンデレが似合わないねー」
「まあ、いいや。気を付けて帰れよ」
「うんー。お礼は後日必ずー」
「そういうことなら――カフェオレを俺にくれ。お礼だけに、な」
「じゃあねー」
俺の渾身のギャグが、聞こえていなかったのだろうか。マイは俺から鍵を受け取った後、足早に去っていく。きっと、弟や妹を迎えに行く時間が迫っていたのだ。違いない。
ウケなかったはずがない。俺のギャグだぞ?
「貴様は、自惚れずぎなのだ」
「おわっ!」
振り向くとエミリーが腕を組んで立っていた。流石、首領。音もなく、気配もなく、俺の背後に立つとは――ただのマントを着けた邪気眼女子高生ではないな。やるじゃないか。
「だが、よくやったぞ。ジューイチ」
「落とし物捜索だけで、大げさな」
「そんなことはない。住人を助けることは、この街に店舗を構える我が結社として誇れる行動だ。貴様は貴様を褒めて良いのだ」
「なんかエミリーに褒められると、照れくさいな」
「うむ! この調子で世界征服を進めていくぞ!」
「ところで、時給は?」
「もちろん発生している。我が側近に確認済みだ」
「ふーん」
そういえば、エミリーの側近って、何者なんだろう。マドカのことではないのか? 誰か別に、エミリーの右腕的存在がいるのだろうか。まあ、いるか。エミリー自身、社長令嬢だし、執事なりメイドなりいるのかもしれない。今度、取材させてもらおうかな。
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