#21 これで元気三千倍だ!

 結局、俺はそのまま昼休みを迎えた。マドカは相当お怒りのようで、昼休みに突入すると本当にエミリーの教室へ行ってしまった。


「インフィニティーでも飲んで、飢えを凌ぐか」


 カフェインの暴力ともいえる奇妙な紅茶を買いに、俺は廊下へ出た。これでも飲んで、全て吹き飛ばしてしまおう。うへっへー!


 ちなみにインフィニ茶とは、隣町の四季市に本社があるアイザワークスという企業などが監修した、コーヒーなのか紅茶なのか曖昧で、強烈な飲み物のことである。一般人はまず飲まないが、一部の人間には非常に好評である。かく言う僕もファンでね。


「ま、これ飲み過ぎるとお手洗いから出られなくなるけどね」


 要するにデリシャスで、デンジャラスな飲み物なのである。


「ジューイチ先生―」

「ん?」


 廊下から席に戻ると、委員長のマイが待っていた。両腕で、大量のパンを抱えながら。


「はん! べ、別に羨ましくなんかないやい! ヤマザキマイのパン祭りなんてさ!」


 そんなことを吐き捨てる俺の目の前に、マイは焼きそばパンを差し出してきた。


「鍵探しのお礼だよー」

「え?」

「実家のパン。いっぱい持ってきたんだー」

「いただけるの、ですか」

「うんー、お礼だものー」

「あ、ありがとうございます」


 俺は包装を剥がし、焼きそばパンを頬張った。しょっぱいなぁと思ったら、俺の涙だった。こうやって人々は助け合うことが大事であり、忘れてはいけないんだよな、きっと。


「美味しゅう、ございます」

「おかわりもいいよー」

「アナタこそが救世主! ぜひ、アンパンマ――ヴァタコさんと呼ばせてください!」

「それ、焼きそばパンだよー。やっぱり、おかしなことを言うよねー」

「これで元気三千倍だ! ありがとう!」

「なんか、違和感があるよー」

「美味しい! 美味しい!」

「これを食べたら、マドカくんと仲直りするんだよー」

「もちのろんろん、ロン・ウィーズリー!」


 俺はありったけのパンを口の中へ運んでいき、よく味わった。


 最高にデリシャスだ! と叫びたい気持ちであったが、何故か脳内に見覚えが無い探偵の姿が浮かび、寒気がしたので、遠慮することにした。


 誰だろう。隣町周辺で、見かけたような気がする。


「ごちそうさま、でした」

「いやぁ、ありがとうねー」

「こちらこそ、感謝だ」

「全部、残さず食べてくれてありがとう――こんなに上手く行くとは、思わなかったよー」

「ゑ?」

「ウチの店のパンを食べたからには、わかっているよねー」


 あ、これ。アカン展開だ。


 時すでに遅し。俺は放課後、マイに連行されるのであった。

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