#22 僕がチーズバーガーです
「ほほぅ、それでジューイチも招待されたのか」
マイに連行された俺がたどり着いた場所、それは彼女の実家であった。店舗ではなく、実家の方だ。そこではエミリーとマドカ、ロコの三人が待っていた。
「エミリーさんにもお礼がしたくてねー。彼女のお友達にも来てもらったんだー」
「良かったじゃん、ジューイチ。ひとりぼっちじゃなくて」
「ごめん、マドカ。俺が悪かった」
「なんだ、自覚があるじゃないか。これに懲りたら、日頃の行いを改めるんだね」
「マドカぁ!」
「気持ち悪いですよ、ジューイチさん。その脳みそ、叩き割りますよ」
「もしかして嫉妬しているのか? 俺とマドカの熱い友情に? ロコの可愛いところ、また見つけちゃったなぁ。これで百六十五個目だ」
「気持ち悪い」
「それはそうと、俺はどうして呼ばれたんだ? 俺へのお礼なら、昼休みに済んだはず」
「妹たちのため、かなー」
「それは、どういう?」
「ウチの妹たち、皆あの小説のファンなんだー」
「ええっ! それは本当なのか!」
あの小説、確かに内容の対象年齢が低めだから、ライトノベルとはいえ、児童文学に通ずるものがあったのかもしれない。お色気シーンとかあまり無いし、お子様も安心して読めるのかも。もしかして、教育上良かったりするのかなぁ。
「お色気シーンが無いというよりも、ジューイチさんが書けないだけですよね、そういう描写を」
「なんだ、ちゃんと読んでくれたのか? よろしい。お前はもう、立派な俺のファンだ」
「アンチという言葉を、ご存じですか」
「アンチだって、読んでくれている限りは大切な読者だ! 読まないで批判するだけのヤツに、こちらも用は無いけどな!」
ちなみに俺が書く小説は、どんなに頑張ってもネタバレを掲載することが不可能なことで有名であったりする。フリー百科事典、『ウッキーペデア』にも情報はあまり掲載されていない。ネタバレを掲載していたヤツもいたが、閲覧者から鼻で笑われたらしい。
何故なら俺は、ネタバレをされても、それだけでは伝わらない内容の描写を心掛けているからだ。原作の小説をしっかりと読まないと、面白くないように、できている。
「伝わらないネタバレ内容は、面白くないよう――フフッ」
「そういうわけで、ジューイチ先生」
「わかっている。しばらく妹たちと遊べば良いのだろう?」
「うんー、皆楽しみにしているからねー」
「鍵探しのお礼のお礼だ。気にするな」
幼児や小学生と遊ぶことで、何か執筆のヒントが得られるかもしれない。人生は取材だ。
「わー、ありがとうー」
「そういうことなら、我たちも」
「うんー、よろしくねー」
マイの案内で、彼女の自宅へ招かれる俺たち。玄関扉を開け、中に入ると、奥から女の子が二人、走ってきた。
「おかえり、お姉ちゃん!」
「ジューイチ先生を連れてきたよー」
「え! テリヤキバーガー・カレーパンの?」
作品名間違えとるやないか。そのタイトルは、そのタイトルで奇妙な興味が湧いてくるけども、ファンを名乗るなら、名前は大体、合っていてほしい。ほしいのだが――
「やあ、こんにちは。僕がチーズバーガーです」
「テリヤキ=チキンはどこに行ったのさ! フランスパンは!」
マドカが耳打ちしてくるが、気にしない。
相手は幼い子どもたちである。第一印象が大切であり、これを誤ると、仲良くはなれない。いつもの不審な挙動は封印し、俺は満面の笑みを浮かべた。彼女たちの目線と同じ高さへ、しゃがみ込む。俺が敵ではないことを証明するためだ。
これならば、優しいお兄さんだと思い込んでくれるだろう。
「お姉ちゃん、このお兄さん変だよ! なんかブツブツ言っているよ!」
「あの本の先生なの? 違う人じゃないの?」
おかしいな、おかしいな。
「ジューイチ、貴様――いつものクセが出ているぞ」
「え、マジでございますか?」
どうやらいつものモノローグが漏れていたらしい。俺の、悪い、クセだ。
「お姉さま。何やら騒がしいようですが」
奥からさらに、子どもが歩いてくる。マイの弟だろうか。彼女の妹たちよりも、背が低い。末っ子か? 眼鏡を掛け、両手で大事そうに、六法全書を抱えている。
うん、別におかしくはない。幼少時から法律に目覚めていても、良いと思う。将来、役に立つと思うし。役に立つと思うのだが――本当に俺の小説のファンなのか?
「わあ! ネットの画像でしか見たことがないジューイチ先生だ! 本物だ!」
「こんにちは。瀬分重壱お兄さんだよ」
「本当にコンビニみたいな名前なんだ! すごいや!」
この男の子が一番喜んでくれているな。六法全書抱えているけど、精神年齢は年相応のようだ。喜び方が一番無邪気であった。
備えるべき知識の準備をしながら、楽しむことは素直に楽しむ。それができる彼は、きっと立派な大人に成長するだろう。少なくとも、俺はそう思った。
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