#23 とっとと逃げるのだな

「よろしい。ならば鬼ごっこをするのだ」


 エミリーの一声で、鬼ごっこをすることになった俺たちは、近所の公園へやってきた。幼い子どもたちと遊ぶためならば、丁度良い広さの公園であった。ふふん、ジューイチ先生の本気、見せちゃうもんね! 全員まとめてかかってこいや!


「ジューイチ先生が鬼、ね!」

「酷い! こんな仕打ちをするなんて! どっちが鬼なのか、わからないレベルだ!」

「ジューイチは運動不足だから、少し鍛えた方が良いと思うよ」

「ま、待ってくれマドカ! 話をしよう!」

「良いことを教えてあげるよ――実は僕、今朝のことまだ怒っているんだ。少しだけ」

「はっ! まさかっ!」

「そうですよジューイチさん。今回の鬼ごっこは、特殊ルールです」


 マドカとロコが腕を組みながら、不敵な笑みを浮かべている。まさか今回の鬼ごっこ、ただの追いかけっこではないというのか。


「秘密結社抗争に備えての修行も兼ねて、逃げるのはジューイチの方なのだ」

「あんまりだ、エミリー! 下っ端を虐めて楽しいか!」

「下っ端への愛ゆえに、貴様にはもう少し強くなってもらわねばならんのだ」

「わ、わかった!」

「ほぉ? 貴様にしては珍しく聞き分けが良いではないか」

「俺が勝ったら、エミリーの側近の人について教えてほしい!」

「そんなことで良いのか? ふむ」


 エミリーは一度よく考えるような表情をした後、何か思いついたことでもあったのか、彼女のチャームポイントである笑顔を浮かべた。ま、眩しい! 流石、我らが首領。


「そうだ、な。そろそろ会わせてやっても良いかもしれん」

「そ、それじゃあ!」

「三十秒待ってやる。とっとと逃げるのだな」


 エミリーがカウントを始めたので、俺は一目散に公園の中を逃げ始める。というか、この公園、隠れたり逃げたりできる遊具がほとんどないじゃん! 三十秒も必要ないんじゃね? はっ! これもエミリーたちの作戦か! 始める前から俺を疲れさせようとしている。な、なんと! なんということだ!


「落ち着け瀬分重壱。こういう場合は冷静になるのが一番だ」


 周囲をよく見渡し、この戦場の環境を視認する。トイレあるじゃん!


「ふふふははははははあははははははあははっ!」


 俺は男子トイレの個室に飛び込み、鍵を閉めた。


「俺の、勝ちだあああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 俺が勝利を確信した、その瞬間であった。


『奥義、承認します。魂美人宴奥義コンビニエン・ストライク!』

「スプラッシュ・スリルマウンテン」

「ふふっ。スリル満点とマウンテンを掛けているのか。高度なギャグ――おわっ!」


 個室の天井を見上げると、水鉄砲のようなものを構えたマドカがその銃口を俺に向け、ペンキのようなものをぶちまけてきた。便器にペンキということか?


「面白れぇ男!」

「このスプラッシューター:マーク京は、防犯カラーボールを標的にぶちまけることができる僕の特異点武装だよ」

「ご丁寧な説明、感謝するぜマドカ!」


 俺はレジスタンス・レジスターを呼びよせる。レジは個室のドアを突き破ると、俺の前に到着した。すぐにシンギュラー・ポイントカードをスキャンする。


「モップ・ステップ・ジャンピング! お掃除開始だ!」


 俺はモップ型太刀を振り回す。カラーボールで汚れたトイレが綺麗になっていき、ついでに鏡とか洗面所とかも綺麗にしておいた。次にこのトイレを利用する人の気分は絶好調であろう。防犯的にも、やっぱりトイレは綺麗な方が良いよね。


「壊した扉は?」

「ま、そこはギャグ描写でなんとかなるだろう」

「通報するよ、ジューイチ」

「上等だ。どうせ今の俺は鬼だからな。ポリスメンとの鬼ごっこだって、やってやら!」

「ふぅん? なら、警察よりも強力な助っ人を呼ぶことにするよ」

「は? 何を言って」

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