#15 わかった、わかった――許さねえ!
「それで、お前はどうしたい?」
「あなたに責任を取ってもらうことにします」
「ほぉ? どうやって」
「私を用心棒として雇ってください」
「そうきたか。だが、決めるのはエミリーだ」
要するに、ロコも俺たちの仲間になりたいと思っていたのだろう。素直になれなかっただけなのだろうか。それとも、心境の変化でもあったのか。俺はロコではないので、その本当の気持ちはわからない。しかし、これだけは理解できる。
ロコは俺たちの仲間になれる人間、つまり魂美人に相応しい者であるということ。
「決めるのはエミリーだが、俺から熱烈な推薦をしておく」
「熱烈である必要はないです! 普通に! 普通に推薦してください!」
これで一件落着か。俺の日常の悩みが一つ解消されたといっても良い。もうコンビニ強盗の相手をしなくても良いのだ。これからは強盗としてではなく、仲間としてロコを受け入れよう。
ロコが持つ悪の心。それを制御させた俺はロコの考えを変えたということになる。即ち、俺にとって初めての征服が、成し遂げられたわけだ。この征服が、エミリーが目指す世界征服の一歩となれば良いのだが。果たして。
「良かったじゃないか、ロコ。エミリーと友だちになれるぞ――」
そのとき、俺の後頭部に激痛が走る。この痛み、覚えがある。あの時は確か教室で――いや、今はそんなことはどうでも良い。小説家としての思考回路を稼働させ、物語上あり得る様々なシチュエーションを導いていく。今回の場合はそうだな――追撃が来るはず。
「おっほっほっ! ワタクシの一撃を受けておいて、追撃が避ける余力があるなんて、アナタやりますわね!」
「あれは、ハンマー・プライサーか? まあ、良い! 一応聞いておこう、何者だ?」
「アナタに名乗る必要性なんて――」
「あっそ、じゃあロコに聞くわ。ロコ、あいつはお前の組織のヤツか?」
「は、はい! 幹部のビバーチェ黄昏さんです!」
「幹部ね。なぁるほど、要は組織に背いたロコを粛清しに来たか」
「な、なんでわかったのですの!」
「えー、だってそういう展開だろ? 創作的に考えて」
「ロコ! この男、もしかして」
「はい。この世界を小説だと思い込んでいる痛々しい小説家の方です」
「どぅも、小説業界のセブン・イレーヴンでぇす!」
「も、もしかして瀬分重壱先生? あのテリヤキ・チキン小説の?」
「ははっ! さてはファンだな? よろしい、サインを書いて差し上げよう」
「ワタクシ、あの小説面白いとは思わなかったのですの」
「オーケー。お前、アンチさんね。わかった、わかった――許さねえ!」
「お、落ち着いてください! ジューイチさん! 状況が複雑になるだけです!」
「おっといけない。俺の、悪い、クセだ――んで? 俺の後頭部にレジスターを叩きつけてきたそこのビバリーヒルズ? ロコはお前たちを裏切ったわけではないぞ? ロコはロコなりの進みたい道が見えてきただけだ」
「ビバーチェ! ビバーチェ黄昏ですの!」
「オーケー、ビヴァホームラグナロク。ロコのギャングスタとしての新たな美学を応援してやりたいと思わないのか? 正義のギャングスタだぞ? 世界初かもしれない」
「そのために、我が組織を抜けて、コンビニに勤務するなんて! 八百屋の方が優れているのに! コンビニ店員なんて誰にでもできるような仕事、やる必要なんてありません!」
「おい」
今、コンビニ店員が、誰にでもできる仕事だと、そう、言ったな?
「ひっ」
じゃあ、やってみせろよ。八百屋だかビバリーヒルズだか知らないが、お前、当然できるよなぁ? コンビニ店員の仕事、余すことなくできるよなぁ? 全部。
「な、なんですの! この男、脳内に直接!」
他人を馬鹿にする時はなぁ、馬鹿にする相手ができることを、馬鹿にする方はできて当たり前なんだよ。優劣が無ければ、馬鹿にする意味が無いからだ。
だから、当然――お前もできるよな? コンビニ店員の、仕事。
「知ら、知らない! 知るわけがありませんわ!」
「じゃあ教えてやるよ」
レジスタンス・レジスターでポイントカードを読み取る。レジスターの中からモップを取り出した俺は、目の前のビバリーヒルズに向かって駆け出していた。
「新人研修は――掃除からだ!」
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