#17 一応、聞くが――どうする?

「ビバーチェさんを撃退するんですよ」


 ロコはそのまま帯電したハンマーを振り上げながら、地面を蹴った。なぁるほど、雷を纏ったハンマーで、ビバリーヒルズ令嬢風女を一網打尽にするつもりだな?


 おっと、先を読み過ぎて、ネタバレをしたような気分になってしまった。


「レジスタンス・レジスター!」

『奥義、承認します』


 ロコがレジスターにポイントカードを投げ込み、スキャンが完了した。


魂美人宴奥義コンビニエン・ストライク!』

「スパーキング・スタンプフィニッシュ!」


 そんなネーミングセンスでは、業界では生きていけんぞ?


「うるさいですね」


 ロコがハンマーを振り下ろす。レジスタンス・レジスターがロコを魂美人として認めたのだ。だから奥義が承認された。そして、その一撃を今――解き放つ!


「おのれですわ、ロコ! 我が結社を、裏切るなんて!」

「裏切ったつもりはないのです。ただ――転職をしようと思っただけです」

「くっ! ファンタスティック・ドーンに、栄光あれ!」

「ほぇ~、密結社構成員の定型台詞みたいなことを言うヤツいたんだなぁ」

「な、なんてこと言うんですの!」

「えい」

「ぎゃぁっ、ですわああああああああああああああああああああああっ!」


 ハンマーが振り下ろされた衝撃により、雷撃をその身に受けたビバーチェ黄昏は八百屋の方角へ吹き飛ばされていった。ふぅ、綺麗な星空だな。


「お疲れさん。良い掃除っぷりだったぞ」


 まぁ、余計に遊歩道が滅茶苦茶になったような気がするが、まあ良いだろう。


「はぁ? どこが!」

「問題ない。明日までにはギャグ描写で元に戻るだろう」

「これだから虚構と現実の区別がついていない人間は――やりますよ、後片付け」

「えー」

「このまま帰ったら、エミリーマートが通報されてしまいます」

「いや、秘密結社なんだから、これくらい放置しても――」

「駄目です。秘密結社間の抗争は、終了後に後片付けすることが条例に明記されています」


 秘密結社とは何なのか。んぅ~、哲学!


「おーい、終わったのか?」

「ん?」


 声がする方向を見ると、マドカとエミリーが走ってきていた。どうやら、遊歩道の片付けを手伝ってくれるようだ。助かるなぁ。持つべきものは仲間だね!


「ジューイチ。僕たち何も言っていないんだけど?」


 声がする方向を見ると、マドカとエミリーが走ってきていた。どうやら、遊歩道の片付けを手伝ってくれるようだ。助かるなぁ。持つべきものは仲間だね!


「だから! 僕たち何も――」


 声がする方向を見ると、マドカとエミリーが走ってきていた。どうやら、遊歩道の片付けを手伝ってくれるようだ。助かるなぁ。持つべきものは仲間だね!


「ああっ! もう! わかったよ!」


 持つべきものは仲間だね!


「ああ、そうだ――」


 俺はロコの腕を掴むと、強引に引き寄せて、エミリーの前に彼女の身柄を引き渡す。


「エミリー。一応、聞くが――どうする?」

「問答無用! ロコは既に我が結社に必要不可欠な存在なのだ!」

「そういうことではないさ」

「うむぅ? どういうことなのだ?」

「ロコ」


 俺はロコに一言呼び掛けた。あとは、彼女次第だ。


「エミリーさん」

「うむ。我こそは、コンキスタ・エミリーなのだ!」

「エミリー、ふざけるの禁止だよ」

「うむぅ……ふざけてなど――」

「エミリーさん!」

「うむっ?」


 ロコが手を差し出す。エミリーは首を傾げて硬直しているだけだ。


「私と、お友達になってください!」

「うむっ! 良かろ――」

「エミリー、ちゃんとしてよね?」

「嘘ですごめんなさい――んんっ」


 エミリーは佇まいを整えると、ロコの手をしっかりと握った。


「ロコからそう言ってもらえて、感謝なのだ」

「そ、それじゃあ!」

「こちらこそよろしく頼むのだ! もうお友達なのだ!」

「エミリーさん!」

「うわなにをする危なっ――ふふっ」


 ロコがエミリーの腕をぶん回しながら、彼女と共に小躍りし始める。最初は驚いていたエミリーであったが、その表情はどこか浮かれていた。


「いやぁ、良かった! 一件落着だね!」

「そうだね」

「まるで俺とマドカのようだね!」

「はぁ? どこが? お馬鹿なことを言っていないで、戦闘の後始末をするよ。痕跡が残っていたら、秘密結社の定義を満たせなくなるからね」

「そういう意味の条例かよ!」


 結局その後、俺たちは日が暮れるまで遊歩道の掃除をした。誰がどう見ても、掃除だけでは片付けられない戦闘の残骸、破損したアスファルトの地面などが存在していたが、流石、俺の特異点武装であるモップ・ステップ・ジャンピング。これを一振りしただけで、みるみるうちに遊歩道が綺麗になっていく。


 ちょっとご都合主義過ぎるような気もするが――それ以上に眩しい光景が、目の前にあった。それはエミリーとロコの微笑ましい友情である。


「でゅへへ! でゅへへ!」

「気持ちが悪いよ、ジューイチ」

「お前も大変だな、マドカ。ロコというライバルが出てきて」

「ああ、はいはい――そうだね」

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