第28話 一瞬

 ほんの一瞬の時の流れの中に、詰め込めないほどのドラマがある。


 常人には、一瞬の時の流れの後の残象のみが目に映る。しかしその残された事象には、幾重にも折り重なった現実が存在することを知る者は少ない。


 一瞬の時は、無限の時でもある。一瞬に一動作しかできぬ者にとっては、一瞬はほんの短い時であるかもしれない。


 しかし一瞬に100動作できる者には、一瞬は有効に活用しうる長き時として存在する。


 獅子王、白虎王、大神魔人、夢子、クロにとって、一瞬とは十分に自己表現できる時の長さであったのかもしれない。


 白虎王、魔人の最後の言葉が流れた瞬間に、魔猫が左から白虎王の頭部を目がけて跳ぶ、合わせて夢子が右から間合いを走り、背中に隠した右手に握った、黒色刃の匕首で左膝下を切り裂く。


 上下二段の攻撃に対し、空中を跳ぶ魔猫には右手に握ったCT447を叩き込み、鉄板を仕込んだ左戦闘靴の裏で、夢子の黒色刃を蹴り飛ばす。


 ガッと大口を開いて遅いかかる魔猫の顔面に、叩き込んだCT447はなぜか空を切り魔猫の姿が消えた。


 左靴底で蹴り飛ばした黒色刃は、闇に消えるが、右膝下に激痛が走る。夢子が背中に隠した左手に持つケーバー1218で切り裂いた。


 右手の匕首は囮で、左手のケーバー1218が本筋だったようだ。


 右膝を地面に落とした白虎王の右背中に、右後方から飛びかかった魔猫の鉤爪が突き刺さり、CT447を持つ丸太の右腕を喰い千切る。


 左腕は間髪入れず振り下ろされたケーバー1218にキレイに切断され地面に音を立てた。


 頭部に生温かい獣の息がかかる。歯噛み音とともに白虎王の首が消えた・・・・・その間1秒未満であった。


 獅子王、無操作に間合いを詰める魔人に、正眼に構えた同田貫正国を上段に引上げ、魔人の頭頂部から凄まじい捷さで唐竹割り。


 「ガシャッ」


 打ち下ろされた同田貫正国が、魔人の頭頂部手前30cmで火花を散らし急止、何物をも叩き斬る最強の日本刀同田貫正国を受け止めたものは・・・・・


 魔人の右手に光る白鞘の短刀、江戸後期天保14年作の同田貫宗春である。


 斬りつけて初めて弾かれた同田貫正国、獅子王に一瞬驚きの表彰が浮かぶ。しかしすかさず上段に引き戻し、右から裂帛の気合がこもった袈裟斬りの連続攻撃。


 「ギンッ」


 これも魔人の同田貫宗春が火花を散らし受ける。獅子王後ろに1歩飛び退き正眼に構え呼吸を整える。


 「ガシッ」


 魔人の右からの神速の斬り払いに、刃を立てて受けた獅子王の同田貫正国の刀身を叩き斬り、そのまま獅子王の首を横から飛ばした。


 一瞬の間に右手とを左手を失い、頭部を喰らわれた白虎王、そして上段からの唐竹割り、袈裟斬りと二合斬り結び、右からの払いに刀身もろとも首を飛ばされた獅子王。


 永き一瞬の時が流れ、噴き出す血飛沫が闇を真紅に染め上げていた・・・・・

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