第24話 グリズリー
筋力強化された足に血液を大量に送り込む。魔豹王の左足が揺れ瞬時に消える。あまりの速さに残像さえ残さず振り抜かれ、靴先が夢子の腹部を襲う。
スピードでは明らかに魔豹王に劣ると見られた夢子の姿が、鉛を仕込んだ靴先が激突する一瞬前に1歩右前に移動した。
1mほどあった2人の距離が、一気に50cmほどに近づく。強敵との戦いでは、相手の攻撃ニ対して距離を取るのが通常であるが、夢子は逆に動いた。
左足の蹴りが避けられる確率は20%程度、避ける場合は当然後ろに移動すると本能がしらせていた。
空振りした蹴り出した左足を瞬時に引き、着地するのと同時に左手で握ったケーバー1218を、横殴りに斬りつける。
夢子との距離が近過ぎる。ケーバーの刃風を腰を落としてかわした夢子の顔がさらに近づき、魔豹王の左の頬に軽く口づけした。
甘い香りが壊れた鼻を擽る。命を削り合う戦闘中にウインクする可愛い笑顔が、この世で見た最後の景色であった。
「ガシュッ」
闇の中を風が走る、夢子の左腕に握った匕首の黒い刃が、魔豹王の右目に深々と沈む。もし心臓を狙った攻撃なら、刃は弾かれていた。心臓の上に埋め込んだ鋼鉄の板に・・・・・
「お兄さん、ごめんね。ホッペにキスしてあげたから許してね」
裏社会では怖れられていた、山梨不死グループの不死身の魔豹王、一度は惚れた可愛い美女に倒されたことを知る者はいない・・・・・
同じ時間が流れる闇の中、南商グループを正面から襲撃するはずの飢狼王ら8人も、巨大な人影に襲われていた。
なんの抵抗もできずに次々と倒されていく部下も、既に7人を数えていた。
何度も同じ修羅場をくぐり抜けてきた強者のはずの部下たちが、まるで巨大なグリズリーにでも襲われたように一撃で即死した。
部下は全員倒れ、残りは飢狼王ただひとり。
「おいお前、人間か?まさかグリズリーじゃないだろうな?」
闇を纏った巨大な人影の圧倒的な強さに、怯えているわけではない。闇に向かって聞く声には、僅かではあるが笑いがこもっていた。
鉄の2倍、アルミの3倍の硬さを誇る長さ50cm、直径3cmのチタン製の丸棒を右手に握っている。
刃物では攻撃時に敵の金属装備に刺さり、抜けなくなる可能性がある。丸棒で砕く、叩き割るのが武器としては効果的と考えていた。
丸棒の握りには、滑らぬように布切れが巻かれているが、布が赤黒いのは今まで倒した敵の血潮であろうか。
飢狼王も185cmの長身であり、体重も100kgを超える巨漢であるが、闇に浮かぶ人影はさらに大きい。
身長は同じ位だとは思うが、横幅、厚みが飢狼王を上回るだろう。さらには醸し出す威圧感が、まさしく巨大な熊のようだ。
恐怖感など感じたことさえない百戦錬磨の飢狼王でさえ、向かい合うだけで圧倒的な威圧感を覚える。
恐怖心ではない、明らかな事実として感じるのだ。こいつは化物だ。戦えば間違いなくオレは負ける・・・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます