第25話 此処から去れ
闇さえも凍らせるような低く掠れた声が流れた。
「今すぐ此処から去れ・・・・・」
威嚇でも脅しでもない。ただ低く静かな声ではあるが背筋が震え凍るようだ。言の葉に確信的な殺意がこもる。
「グリズリーかと思ったが、やっと人間の声が聞けたんで安心したぜ。しかしな、簡単に尻尾を巻いて引き下がる訳にはいかないんだよ。オレにも一応面子ってものがあるからな」
少しでもこの化物に関する情報が欲しかった。このまま戦えば間違いなく100%負ける。しかし何か僅かな弱点であっても確認できれば、1%でも勝てる可能性が出てくるかもしれない。
「明日の朝陽を見たくないのか・・・・・」
凍るような掠れた声に、まるで冷凍室に入ったように空気が一気に凍りつく。
「命なんか惜しくはない。冥土の土産にアンタのような化物のことを、もっと知りたいんだよ。あっちの世界に行ったときに、アンタと戦った自慢話ができるようにな」
「明日を生きぬ者に、話すことなどない・・・・・」
巨大な殺気に凍りついた冷気が肌をチクチクと刺すようだ。化物が言うように、このまま逃げて残りの人生を楽しく暮らすのも、一つの選択かもしれない。
「アンタ、オレがこのまま引けば見逃してくれるのかい?」
「・・・・・・・・・・」
返事がないのは、どうやら肯定らしい。このオレ自身が逃げて帰るのを考えるなんて・・・・・自嘲的に笑った口の中が苦い。
もちろん神など信じちゃいないが、お気に入りの首から吊したクロムハーツのチャームダイヤモンドネックレスのクロスを軽く握った。
負けることが分かっていても、やっぱり逃げられねえよな。化物にせめて一撃食らわせて、地獄で待ってる部下に自慢話でもしたいんだ。
「やっぱり逃げて帰れやしねえよ。化物のアンタと戦えば死ぬのは分かってるんだがな。なあ、せめて地獄に落ちる前に、名前くらい教えてくれねえか」
「大神魔人・・・・・」
「おお、アンタがあの魔人なのか。生きてるうちにアンタ会えて光栄だぜ・・・・・いくぜっ」
凍りついていた殺気が弾けた。相手は化物だ、今までの戦いで身につけた戦闘技など何の役にも立たない。間合いを一気に跳び、巨大な影に渾身の力を込めてチタン棒を振り下ろす。
飢狼王の右腕は義手である。怪我や戦闘で右腕を失ったわけではない。21歳のとき、親が残した遺産から数千万の手術費を払い、自ら右腕を切断し機械腕に付け替えたのだ。
腕力だけなら不死グループの4人のリーダー、獅子王、白虎王、魔豹王、飢狼王の中でも一番であろう。
飢狼王の振り下ろすチタン棒を受けて、今まで生き延びた者など1人としていない。
「ビュッ」
闇を斬り裂くチタン棒は、巨大な影の頭頂部に爆裂した・・・・・はずであった。
「ゴシャッ」
巨岩さえも打ち砕く飢狼王のチタン棒の一撃は、砕け散るはずの巨大な人影の頭頂部で停止した。魔人が受けた左前腕に激突して・・・・・
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