第23話 恋敵

 「まいったね。そんなに可愛い顔してるのに、尻爆に後頭部頭突き、急所蹴りの連続攻撃、とどめはバク転頭部蹴りかよ。いったい何処でそんな実践的攻撃方法習ったんだよ」


 顔面への頭突きで鼻柱を砕かれ、吹き出した血飛沫を右手の指で強く抑え、出血を止めながらも笑っている。楽しくてたまらないようだ。


 「ごめんねお兄さん。腕があんまり痛いものだから放して欲しかったの。イカしたお鼻を潰しちゃったかしら?」


 抱き締めたいほど可愛い笑顔で、小首を傾げながら夢子が囁く。こちらもいつ拾い上げたのか、落としたはずの匕首を左手で弄んでいる。


 「姉ちゃん、気にするなよ。鼻なんか潰れてもすぐ治せるからな」


 右手の指で、潰れた鼻を力任せに元の形に整える。痛みさえ感じないように、神経組織の改造もなされているのだろうか。


 「はじめは楽しんでから殺すつもりでいたが、気が変わったぜ。姉ちゃん、お前、オレの女にならねえか?どうやら惚れちまったみてえなんだ」


 「そう言ってもらえると、とっても嬉しいんだけど、ごめんなさい。アタシ惚れてる男がいるから無理」


 「お前を惚れさせるような、そんな男がこの世にいるのか?妬けちまうぜ、どんな野郎なんだ?」


 「うちのボス、とっても強くてカッコいいんだもの」


 「ボス?お前の組織のトップなのか?姉ちゃん、よかったらその恋敵の名前を教えてくれねえか?」


 「うちのボスは、大神魔人(おおかみまひと)っていうの」


 「大神魔人・・・・・あの噂の立川南の魔人が、姉ちゃんの惚れた相手なのか?」


 「あら、お兄さん。うちのボスのこと知ってるの?」


 「まだ面を拝んじゃいねえが、関東、いや日本全国でも、裏社会では知らねえヤツはいねえ凄腕らしいな」


 「うふふ、そうなの。うちのボスはメチャクチャ強いの。それにカッコいいし」


 「姉ちゃん、その魔人さんはオレより強いかい?」


 「ごめんね、お兄さん。比べられないよ。あまりに差があり過ぎて」


 「そうかい、よぉく分かったぜ。それじゃあスッパリ諦めるしかねえな。ただし姉ちゃんには、ここで死んでもらうしかねえが、しょうがねえよな」


 まるで昔からの友人のように、向き合ってやり取りをしていた2人の間に、キンと音がするような殺気が走った。


 「お兄さん、ごめんね。ご希望に添えなくて。あっちの世界に行ったらいい娘を探してね」


 腰を少し落として、匕首を握った左手もそして右手も背中に隠す。どちらの手で斬りつけてくるのか分からぬように・・・・・


 あの噂の魔人、大神のところで鍛えられた女だ。だからこそオレの部下など相手になるはずもねえ。それにあの連続攻撃、かなりの戦闘力と見なくちゃならねえ。


 しかし筋力はオレの方が当然上だ。スピードも同じくオレが上。油断さえしなければ負けるはずなどねえ。


 左手にケーバー1218を軽く握り、少しずつ間合いを詰める。まずは爪先に鉛を仕込んだ戦闘靴で蹴りを入れ体制を崩そう・・・・・

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