第10話 取引前夜

 5時30分には、なんとか仕事の依頼を取りまとめた。西からの物資の取引は、山梨の組織『甲州会』と東京と山梨の県境付近で今夜夜中2時に行われる。


 奥多摩町と隣接する小菅村の温泉施設の駐車場が指定場所である。大きな取引については、どこからか情報が漏れるのはいつものことである。


 各団体が行う大きな取引現場を襲い、物資を略奪することはごく当たり前の行動ではあるが、利益と成功確率、争いによる戦力喪失のバランスを測ることが団体運営の最も重要な課題であり、その予測を誤ると団体倒壊の危機さえ起こり得る。


 今回の取引については、皇国、桜会はもちろん、奥多摩地域で勢力を誇る『西多摩連合』も襲撃してくる可能性はある。さらには山梨県内の他組織などの襲撃も考えられていた。


 「仲田よ。今夜の取引はお前の初仕事だな。女から金を引っ張るのとは訳が違う。金額はでかいし、他所の組も狙ってる大きな仕事だ」


 「ハイ会長、分かっています。皇国と桜会は今回は動かないと読んでいます。問題は奥多摩と山梨の他組織の襲撃が考えられますが、魔人の所へ協力依頼していますので、余程のことがない限り問題は発生しないと思われます」


 「その『南の魔人』のサポートは、それほど効く御守になるなのか?魔人の所はどれ程の戦力をもっているんだ?」


 「いや戦力は魔人本人と若い小娘の2人だけですが、その魔人がまるで悪魔のように恐ろしく強いと評判なんですよ」


 「おいおい仲田よ、本当に大丈夫なのか?今夜はウチからは何人繰り出すつもりなんだ?」


 「でかい仕事ですから30人は使いたいところなんですが、あまり兵隊を多く動かすと本部が手薄になり、皇国や桜会に攻め込まれるとまずいんで、今夜は車3台、兵隊は私を含めて10人であたるつもりです」


 「たった10人でやるのか、数千万円の大仕事を?魔人さまは一緒に動くのか?」


 「車2台に兵隊4人ずつで8人。残りの1台に兵隊1人と私、そして魔人と小娘が同乗します。兵隊9人は特に戦闘能力の高い者を選んでおります」


 「魔人の他にその小娘も行くのか?本当に大丈夫なのか?」


 「会長、あの魔人って野郎はマトモじゃねぇ。一言だけで皆が凍りつくような化物だ。たぶん人間じゃねぇだろうと俺は思いますよ」


 「ほぅそうか、お前をビビらす程なのか?そのうち一度お目にかかってみてぇもんだな。しかし小娘は何故ついてくるんだ?その小娘も人間じゃねえ化物なのか?」


 「いや会長、娘はまるでアイドルみたいな可愛い顔に抜群のスタイル。あんな女を相手にしてたらこっちの体がもたねえくらいの上物ですよ」

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