第11話 M18

 吹き抜ける風が燃えるように熱い。日中は47℃で目眩がするほどの炎暑であった。夜の7時に陽は落ちたものの、道路もビルも空気さえも熱を含んだまま、焼け焦げた香りを風が運んでくる。


 立川駅には北側にルミネ、南側にはグランディオの駅ビルがあったものの、現在では南側のみ倒壊することなく『南商』が専有している。


 北側は8年ほど前に駅ビル職員などが50数人で創立した『立鉄会』かあったが、桜会との抗争であっけなく壊滅されている。


 抗争においては、かなりの銃撃戦とさらには数発の手榴弾も爆発し、それ以降は建物自体もひどく破壊され廃墟と化している。


 現在南側グランディオ内には、南商の幹部そして130人ほどの隊員達と家族が居住しているといわれている。


 ピルの内部の詳細は不明であるが、1階出入口は完全封鎖し、2階からのみ出入できるよう改造され、常時30人ほど隊員が警備に当たっていると噂されている。


 3階には食料・物資の確保や管理を行う『調達部』と他組織との抗争などを行う『戦略部』が配置され、4階には様々な計画や調整を行う『調整部』と団体トップである『会長室』が設置されているといわれている。


 4階から上は隊員用宿舎、そして10階、11階には会長と幹部の宿舎があると聞くが、保安上詳細は不明である。


 仲田は夜の大仕事に備え、早めに夕食を済ませ6時からひと眠り。2時間ほど眠り目を覚した。


 壁の時計は8時、出発の0時にはまだ4時間ほど余裕がある。11時から会長を含めて最終の打ち合わせを行う予定となっている。鳥肌が立つくらいの冷水シャワーを浴びて気を引き締めた。


 体の水滴をタオルで拭き取り、久しぶりの戦闘服を身に着ける。戦闘服の下には念のため防弾チョッキは忘れない。


 つい1月ほど前、調達部の第1リーダーから南商No.2の調整部長に昇任したばかりであり、最近は南商の顔として交渉などが多く、戦闘服でなくスーツで過ごすことが多かった。


 スチール製のテーブルの引出しから、米軍が正式使用していたSIG SAUER P320ーM18を2丁取り出した。


 つい先日までは調達部だったため、仕事中は常に持ち歩いていたが、実際に発砲したことがなかった。今夜はいよいよ使い始めになるかもしれない。


 P320は、フレームはポリマー、スライドにステンレス鋼を使用している。フルオート830gのM17とは異なり、740gのコンパクトのM18ではあるが、9mmパラベラム弾を15発装弾できる。


 出発前に少し実射練習をしておくか。コイツを使わないで済むことを神に祈ろう。口に含んだ冷めたコーヒーがやたら苦く香った・・・・・

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