第12話 往路

 11時50分、仲田は戦略部の第1隊長の先導で、1階待機中の車に乗り込んだ。既に先頭車両に隊員4人、最後尾車にも同じく4人が乗り込み待機している。


 中間車の運転席に第1隊長が、仲田は助手席に乗り込んだ。腕時計は11時55分、出発時間まであと5分残していた。


 「おい金井、ヤツらはまだ来ていないのか?」


 仲田が運転席に座る金井に声をかけた。車内の温度が急に下がる。突然、後部座席から声がかかった。


 「部長さん、大神探偵社2名、もうちゃんと乗ってますよ」


 仲田と金井が乗り込んだつい先程は、後部座席には誰も居なかったはずであったが、振り向くと、いつの間にか夢子と大きな影が仲田の目に映った。


 『こいつら、いつ車に乗り込んだんだ。本当に化物なんじゃねえか?』


 0時ピッタリに取引場所の山梨県の小管村へ向けて、車3台を連ねて出発した。かっての高速道路は使わず、一般道を福生市、羽村市、青梅市、奥多摩町を経由して山梨県に進む経路を選択していた。


 旧高速道路はかなり荒れ果ててはいるものの、現在も通行は可能である。しかし今では管理者も無く、料金を徴収すものなどいない。


 限られた道路を進むため、襲われた場合は逃げ道もなく、危険祭が高いと判断したためである。


 旧高速道路コースも、一般道路コースも、概ね1時間30分ほどとさほどの差異はない。多少の時間的ロスはあっても、危険時には迂回路を選べる一般道を選んだのは当然かもしれない。


 また往路は手ぶらであり、他の組織からの襲撃の可能性も低く、多少の時間的余裕を持って出発したのであった。


 荒れ果て乱れた社会、この深夜に車を走らせる暇人などいない。闇に包まれた無人の道路を高速で飛ばしていく。


 「先生、今日はよろしくお願いいたします。まあ往路はブツも持っちゃいませんから、まず襲われる可能性はないと思いますが・・・・・」


 仲田は迷った挙句、『大神魔人(おおかみまひと)』をまさか魔人(まじん))や化物と呼ぶわけにも行かず、とりあえず『先生』と呼ぶことに決めていた。


 移動中の3台の車には互いに連絡を取り合うため通信システムとトランシーバーを各車に2台ずつ持たせていた。移動中は通信システムは常にオンになっている。


 「まもなく奥多摩に入る。西多摩連合の縄張り区域に入るが、まだ手ぶらだ、まさか襲ってくることもないだろう」


 仲田のまだ緊張感はない声が各車に響く。


 「襲われる可能性が低いと安心する状況下は、敵は最も襲い安い状況下にあると考えることを忘れるな」


 車内スピーカーからではなく、重く掠れた声が3台の車内に流れた・・・・・

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