第13話 西多摩連合

 南商と甲州会が取引を行う予定日の3日前の夜のことである。青梅市内の古い中華料理店の薄暗い照明の下で、3人の人影の話し声が流れた。


 「おい、50万円ってのはちょっとふっかけ過ぎじゃねえか?」


 「いや何もあんたの所で買ってもらわなくても構わねえんだ。興国や桜会でも喜んで買ってくれるだろうからな」


「おう情報屋、ずいぶんと強気じゃねえか。そんなにうまい話なのかい?」


 青梅市内、明星大学青梅校の広大な敷地内に『西多摩連合』の本部が置かれている。応接セットのテーブルの上に置かれた携帯電話が着信音を奏でていた。


 「おう、ひさしぷりだな。何かいいネタが入ったか?何?でかいヤマ?電話じゃ話せねえって、よし分かった、今日の7時にいつもの中華料理店だな」


 金にならないつまらない話から大きな物や金が動く取引など、様々な情報が入ってくる。もちろんガセも多いが、その中からいかにうまい話を拾っていくかが情報担当の腕次第である。


 情報屋の言い出し値を40万円までなんとか引き下げて、買い取ったネタが大量のコンビーフの取引であった。食料、武器、他の団体動向は最重要情報である。


 西多摩連合はその存在状況が不確かな団体である。もともとは大学体育会が中心となって地域住民との連携もあって出来上がったと言われている。


 構成員も大学内の空手道、剣道、柔道、キックボクシングなど格闘技系クラブを中心とした、800人を超える大組織とも言われているが、中核となる戦力は大学OB中心の400人程度と噂されている。


 他団体との抗争は積極的ではない、比較的穏健な団体と言われているが、食料や武器調達に関しては、他団体との抗争さえ辞さない強い行動力を持っている。


 本部内で運営会議が開かれていた。


 「4tのコンビーフ缶か、そいつはでかいヤマだな。缶詰なら長期保存も可能だし、学生や地域住民も喜ぶだろうな。なんとか山梨の組織か、南商から攫えねえもんかな」


 「これだけ大量の食料だ。どこの組織だって何としても欲しがるはずだ。興国や桜会の動きはどうだ?」


 「たぶん興国や桜会も同じ情報は掴んでいるはずだが、今回は2団体共に動かないと聞いています。立川は興国と桜会の全面戦争の可能性も有り、なるべく大きな衝突を避けているとの情報です」


 「そうか、それが確かな情報なら今回のヤマで動くのはうちと山梨の他組織、それに小さなグループぐらいだな。興国と桜会の動きは南商もわかってるはず。少しはガードも緩んでいるかもしれないな」


 「往路に出発したのは3台だけと情報が入っています。今回は多少の犠牲を払ってでも貴重な食料をいただきますか」

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