第9話 仲介

 仲田が依頼について切り出した。


 「依頼の内容について説明させていただきますが、依頼経費は10万円でよろしいですよね」


 大神ではなく、夢子が答えた。


 「いえ100万円いただきます」


 「いや依頼金は10万円のはずだよね」


 まるでアイドルのような美しい笑顔を浮かべて夢子が答える。


 「そちらの都合で破棄され、再度の依頼は100万円いただきます」


 「なんだと、ふざけるな」


 一人ソファに座る仲田の後に立っていた男のうちの一人が、ブチ切れたように突然大声で叫んだ。


 「外に出ろ。命が惜しければ・・・・・」


 氷のように冷たい掠れた声が流れた。部屋の温度が一気に10℃ほど下がる。死への恐怖もない命知らずの若者が、その声で凍りついた。


 「大村、このバカ野郎が、おい鈴木、すぐにこの野郎を連れてお前も外に出てろ」


 凍りついた部屋の空気を仲田が破った。仲田に怒鳴られて固まっていた二人はドアの外に。仲田はソファから降り、敷き詰めた黒い絨毯に直接腰を下ろし、両手をついた。


 「大神さん、本当に申し訳ない。このとおりオレが頭を下げるので、何とか勘弁していただけないだろうか?」


 「あなたが下げる頭に価値などない」


 さらに室温が下がる。


 巨大な影が揺れて、ソファから大神の後姿が部屋の奥に消えていく。声などかけられない。たぶんかけた瞬間に命を失う恐怖があった。


 絨毯に座り込んだ仲田に、美しい足を組んだままソファに座る夢子が声をかけた。


 「200万円なら、私から代表にお願いしてもいいけど、どうします?」


 このまま帰れない。依頼は4tのコンビーフの確保だ。1缶100gのコンビーフ4万個である。1缶最低千円でさばいて4千万円。仕入に2千万円、利益が2千万円の大仕事だ。依頼金が膨らんでもまだ利益は大きい。交渉は会長から全て任されていた。


 「分かったよ。姉さんの話に乗せてくれ。200万円で結構だ。なんとか面倒みてくれ」


 「それに私へのお礼が20万円で220万円。それでもいいならお受しますよ」


 「可愛い顔してるけど強欲だな。分かった頼むよ。この話が終わったら美味いもんでも食いに行かねぇか」


 薄暗い明かりの中ではあるが、背は高く二枚目俳優並みの美形である。女性落とし専門で南商にかなりの利益を上げて、つい最近、部長職に昇任したばかりの仲田であった。


 「ふふふふ、イイ男のあなたが声掛ければ、ほとんどの女の子は付いていくのかもしれないけど、私はウチの代表以外は無理。だって私、強い男しか興味ないから」

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