夜の帳が下りて
希藤俊
第1話 欲望の街
「ダッダッダッダッダッダッダッ」
「バキューン、バキューン」
闇の中を激しい銃撃音が切り裂く。無数の銃が乱射され、しばらくの後、争うどちらかの側の多くが、焼けた路面やピルの影に冷たい体を横たえ争いは終わる。
いつものことではあるが、毎夜、いや日中でさえも、甘い血の香りが絶えることなどない。
2055年8月中旬、時刻は真夜中1時13分。人通りなどあるはずはない。東京都の西部、多摩地区立川の駅前である。
熱風が空気を焦がしている。深夜であるが、吹く風さえも焦げた太陽の匂いをたっぷりと含んでいるようだ。
地球温暖化などと世界が騒いでいたのも、もう30年は昔の話である。地球上から寒気は消え去り、南極、北極さえも熱帯の地となって久しい。
地球上のすべての地域の気候は破壊され、日中は、体温を軽く超える45℃前後であり、太陽が沈む夜でさえ、やっと35℃程度に下がる、そんな気候が地球上のどの地域においても1年中続いている。
世界は滅び世界人口の3/4は既に死に絶えたと、ニュースが流れていたのもうなづける。弱者は次々に倒れ、灼熱気候の中でも何とか生き残れる者のみが、いまだ生き残っていると思われる。
『食べる、生きる』2つの欲望を満たす混乱の世の中で、法を守り正義を護る機能などとうに消え失せ、ただ強悪な『奪う力』を持つ者だけが自由を生きているようだ。
「井沢よ、昨夜は何人死んだ?」
「6人ですね。奴らLMGを2、3丁持ち出しやがって、ウチは拳銃だけじゃあまともな勝負になりませんよ」
「軽機関銃か、じゃあ相手は『皇国』の奴らか?」
「たぶんそうだと思いますよ。枝葉の野郎がLMGを使えるのは、自衛隊崩れ以外には考えられませんからね」
「皇国の奴らは、俺達の縄張りの北口駅前まで繰り出してくるつもりなのか?」、
「いや必ずしもそうではないようです。東地区の市ヶ谷からの武器食料の運搬車両が我らの管理地域内を通過するために、援護に現れたようです」
「そうかい、じゃあとりあえずは、全面戦争というわけじゃねえようだな」
「皇国の連中も我ら『桜会』の力は分かっているはずですから、そう簡単には全面戦争はしないはずですよ」
「井沢よ、お前、いま皇国の戦力はどれ位と見てるんだ?」
「会長、現在、皇国は800から900人程度。ウチは750人程です。武器は稼働できる航空機は0、ミサイル、大砲、戦闘両車等もほとんど全部市ヶ谷に集中させたため、せいぜい多少のLMGとHMG位ですから、ウチの銃器とさほどの差はないと思われます」
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