第15話 化け物
車のライトで照らされた道路に何台かの車が横向きに止められている。明らかに通行を妨害するための障害物である。
「ライトを消せ。うかつに車外に出るな。狙い撃ちにされるぞ」
3台の車内通信から仲田の固い声が流れた。間違いなく他組織の襲撃と思われる。
車のライトが消えた闇の中で敵を探る。闇の中の車は3台、車の陰にはいくつかの人影らしきものも見える。
「車から出てきたヤツは遠慮なく撃ち殺せ。出てこなければ、ここでこのまま足止めしてやる」
鈴木が10人の男たちに声をかけた。とりあえず拳銃は全員持たしているが実射経験がない者も何人かいる。
素人が興奮して闇雲に撃ちまくると、同士打ちにもなりかねない。慌てずにじっくりと攻めるつもりでいた。
息を潜めた無音が5分ほど続いた。膠着状態に苛ついた仲田が声を強める。
「くそ、このままじゃ埒が明かねえ。何とかあの車を取り除かなきゃ、目的地までたどり着けねえ」
「後部座席の窓を開けろ」
重く掠れた声が流れた。運転席の金井が声につられ窓を開いた。後部座席の窓から黒い影が闇に消える。数秒後、障害物である車の陰で悲鳴が流れた。
「ぎゃあー」
車を盾として銃を構えていた男たちのうちの一人が、突然絶叫し倒れた。鮮血を吹き上げる首から上が消えていた。
「おい、どうした?何があった?」
声が上がった辺りに、鈴木が強く問い質す。闇の中での突然の騒ぎに、皆が浮足立っていた。
「分からねえ、何かの気配がしたと思ったら、血を噴き出しながら突然ぶっ倒れたんだ」
「敵にやられたのか?」
「分からねえよ。人間じゃねぇ、何か獣に喰らいつかれたみてえだ」
ゴリッバキッ、固いものを噛み砕くような不気味な音が闇に響く。絶叫して倒れた者の横に大きな黒い影が佇む。2つの金色の光を放ちながら・・・・・
「や、ヤバイぜ鈴木さん。クマかなんかにやられたみてえだ」
山のように大きい黒い影が薄い月明かりに浮かぶ。クマか?いや違う。黒豹か?いやもっとでかい。虎か?いや漆黒の獣だ。倒した男の頭をガリガリと噛み砕き咀嚼している。
「まずい、化け物が出たぞ」
裏返った鈴木の声が響くと同時に、恐怖に取り憑かれた男たちが、化け物の影に向かって一斉に銃撃を始めた。
飛び交う銃弾の中、車の陰に隠れた男たちの間を黒い影が吹き抜けていく。甘い香りを残しながら。
10数秒後には、男たちは喉を切り裂かれ一声も出せぬまま、焼けた路面に横たわっていた。ただ一人鈴木のみを残して・・・・・
「帰ってボスに伝えておくんだね。南の魔人には二度と関わるなって」
血を浴びた夢子の美しい笑顔が、月明かりに浮かんで見えた・・・・・
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