第20話 殺戮
一瞬にして4人の戦闘員が倒された魔豹隊。残るは魔豹王と3人だ。
「手強いぞ、本部に連絡を入れろ」
魔豹王の低い声に反応し、無線機を持つ戦闘員がスイッチを入れようとした瞬間に闇が動いた。
悲鳴さえあげられず、首から下のみを残して倒れる男。その死体の横に闇が集い形を創る。
「ゴリっ、バキッ」
牛ほどの大きさの生き物、たぶん獣であろう。漆黒の体に金色の目を持つ。ライオンではない。虎ではない。黒豹でもない。
それらの野獣よりふたまわりは大きい。口から真紅の雫を滴らせながら、何かを咀嚼している。
「リーダー、化物だ」
狼狽えたり怯えたりしているわけではない。むしろ強い敵と出会えたことを楽しみ、興奮しているような声が流れた。
あと3人。ひとりが漆黒の獣に弓を絞る。いつの間にか横に移動した夢子の黒い匕首が走り、弓を握る男の右手首が右腕から離れる。
振り下ろした黒い刃がそのまま止まらず男の喉を切り裂く。あと2人。
「プロの殺し屋か」
赤外線ゴーグルで若い女の姿を見かけてから、まだ30秒も経っていない。あまりの手際の良さに、魔豹王が思わずニヤリと笑った。
魔豹王が弓を使う戦闘員が倒れるのに目を移した一瞬、残りの戦闘員が凶妖な闇に飲まれ頭部が消えた。
あとひとり。ただ魔豹王のみ。
「可愛い姉ちゃんと黒い化物。慌てなくてももういいだろう。あとは俺ひとりだけだ。本部に連絡なんかしねえよ。じっくり楽しもうじゃねぇか」
南商のグループを後ろから襲うため、飢狼王を最後尾に飢狼隊8人が闇を走る。全員が厚い川底の戦闘靴を履いているが、足音さえほとんど立てず獣のような捷さで走る。
「ガシュッ、グシャッ」
熟れたトマトを硬い路面に叩きつけたような爆潰音ともに、先頭の2人が吹っ飛ぶ。赤外線ゴーグルを着けた一人が顔の真ん中を大きく凹ませ即死。他の一人は右こめかみを砕かれ同じく即死した。
「敵だ」
飢狼王が残りの戦闘員に注意喚起する。その言葉が終わらぬうちに、再び肉と骨を破壊する音が闇に響く。
「バシッ、ゴキッ」
腹部に空洞が開いた男が倒れ、首が左に折れた男も倒れる。残り4人。
「止まれ、集まれ。分散するな」
飢狼王を中心に残り4人が背中を合わせ守備体型を作る。
闇の中に巨大な人影が浮かぶ。無線機で本部へ連絡しようとした男の頭蓋骨が、激しい打撃を受けて頭頂部から陥没する。脳漿をぶちまけて。残り3人。
正面から迫る巨大な人影に自慢のサバイバルナイフを振り下ろした。影のみ両断されたが、そこに実体はなく、前のめりになった男の首が男の足元にゴトンと落ちる。
「クソったれめ、弾いてやる」
獅子王から禁止された銃器の使用であったが、怒りに忘れた男が腰の後ろに下げたホルダーからベレッタM9に指をかけた。
男はM9に指をかけたままあっけなく生涯を終えた。額に4本の指穴を開けられて。残り飢狼王ひとり・・・・・
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