第29話 小さな赤い火

 取引場所に到着した南商グループの仲田が率いる3台の車は、ライトを消して建物付近に停車し、緩やかな傾斜地である駐車場の高台まで150mほどの距離を移動開始した。


 1号車と3号車の運転者を除く戦闘員6人を先頭に、その後に1号車、3号車が続き、殿は戦略部の1番隊長の金井が運転し、リーダーの仲田が乗る2号車である。


 傾斜地にある駐車場の中で1番見晴らしの良い高台に移動して、取引相手の甲州会を待つ戦略だ。


 取引を邪魔する敵が闇に潜んでいれば、先に叩き潰して今夜の取引の安全を確保したい。


 2m先は何も見えぬ漆黒の闇の中、出発前の打合せで頭に叩き込んだ駐車場の地図を頼りに進む。


 用心しながら5分ほどかけて最上部に近づいた時、目の前の闇の中、蛍のような赤い光が灯った・・・・・


 漆黒の闇の中に灯る蛍のような光。誰か居る。先頭を行く6人の隊員、後に続く3台の車も緊急停止した。緊張が走る。


 3台の車は残し、仲田と金井を先頭に6人の戦闘員も武器を手にして闇の中を進む。高台まで数m・・・・・


 小さく点る赤い火が漆黒の闇を僅かに溶かし、煙草に火を点す巨大な人影が闇に浮かぶ。ガード役の南の魔人である。


 「おう、先生。先に到着されていたんですか?」


 敵が潜んでいる可能性があるこの闇の中、煙草を吸うなど最も危険な行為であるが、文句や注意などできはしない。命が惜しいからだ・・・・・


 「イケメンくん、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。もう先乗りしていた敵は全部片付けちゃったから」


 甘えた声が流れる。ピッタリした黒のTシャツに黒のミニスカ姿の夢子が黒猫を抱えて闇に浮かぶ。


 「おう可愛い姉さんか、敵がいたのかい?」


 「今夜の取引の邪魔をしようとするヤツらだよ。ボスとアタシとクロの3人で片付けしといたの」


 「3人で片付けた?どこのどいつだい、そいつらは?」


 「よく分からないよ、聞きたきゃそこらにいるから聞いてみたら、ふふふ」


 血生臭い空気が闇を包む。濡れているように靴底ががヌルリと滑る。闇の中、周りを見渡した金井と仲田が息を呑んだ。


 一面黒くドロリとした液体が、地面にぶち撒かれている。あちこちに転がるものは、首がないものや、手足が千切れたものなど何体もの死体だ。


 「こりゃあ驚いた。先生方が処理したヤツらですかい?」


 「そうだよここに9人。それから前後からアンタたちを襲おうとしていた襲撃部隊が2つで16人、合わせて25人を片付けといたの。お仕事だからね」


 駐車場についてからまだ5分程度しか経ってはいない。俺達と一緒の車から抜け出して25人を皆殺し・・・・・

コイツら、やっぱり人間じゃねぇ。


 背筋に氷の悪寒が走る。我慢したが恐怖で指が震える。仲田と金井を除く全ての隊員たちは、氷結したように立ち尽くしていた。


 仲田の喉から、微かに震える言葉が吐き出されるまでに、沈黙が2分ほど続いた。


 「先生と姉さん。あ、ありがとうございます・・・・・」

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