第5話 ドアを開けて
不安と緊張で体が震えている・・・・・
本当に真理を探してくれるのだろうか?
本当に10万円のみで仕事を受けてくれるのだろうか?自分まで危険な目に合わないだろうか?
黒い鋼鉄製のドアの横、コンクリート壁の金属プレート『大神探偵社』の下にある押しボタンを震える指で押し込んだ。
「カチリ」
重い金属製の鍵音が響き、押しボタンの下にある小さなスピーカーから電話のあの声が流れた。
「どうぞお入りください」
重いドアである。開ける時に気がついたのだが、ゆうに厚さ10cm以上はある。開きかけたドアの隙間から中の様子をうかがった。
100㎡以上はあるだろうか、黒のカーペットが敷きつめられた室内は、ろうそくを灯したような暗さで、絵里はさらに不安をつのらせた。
「三原絵里さまですね。こちらへどうぞ」
まだ暗さに目が慣れない絵里の前に、突然人影が現れた。20歳前後の若い美しい女性である。
「あ、はい。昨日、お電話差し上げた三原絵里です」
ネット広告で拾った情報なので、当然怪しげな内容かもしれないが、昨夜、藁にもすがる思いで電話を入れたのであった。
絵里は昨夜のやり取りを思い出していた。壁の時計は既に23時45分を刻んでいた。もう深夜である。こんな時間に電話がつながるのだろうか?
何度かためらった後、ネット広告に表示された番号に電話を入れた。数回の呼び出しのあと通話状態に入った。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
何も応答がない息苦しい状態が数秒続く。無言に耐えきれず絵里から声を送った。
「もしもし、大神探偵社さんでしょうか?」
「はい・・・・・」
掠れた低く重い声が応えた。
「あの、ネット広告で見た者なのですが、人探しをしているんです。10万円で引き受けていただけるのでしょうか?」
「はい・・・・・」
「予算が10万円しかないのですが、本当にそれだけでよろしいのでしょうか?」
「はい・・・・・」
「細かいお話や依頼の手続きは、どのようにすればよろしいのですか?」
「こちらにお出でいただいて、お話をうかがいます。来られますか?」
「はい、そちらの場所は確認しました。同じ市内ですからお伺いできますが、いつお伺いすれば、よろしいでしょうか?」
「あなたの都合の良い日時で結構です」
「わかりました。それでは明日の昼、11時でよろしいのでしょうか?」
「お待ちしています」
電話をかける前の不安はさらに増したような気がする。しかし今の絵里にとっては、真理の安否を確認できる手段は、唯一この方法しか思いつかなかった。
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