第6話 依頼

 若い女性に案内されて部屋の奥に進む。室内の暗さにもだいぶ目が慣れてきたようだ。漆黒のカーペットに足が沈む。


 5人がけの漆黒の応接セットまで案内され、ソファを進められた。硬めの座り心地、使い込まれた皮の匂いがする。


 「代表が今参りますので、しばらくお待ちください。何かお飲み物をお持ちしましょう。コーヒー、紅茶、オレンジジュース、何がよろしいですか?」


 「あっいえ結構です。お気を使わないでください」


 「遠慮なさらないで。ここにたどり着くまで大変だったでしょう」


 まるでモデルのような美しい笑顔に、緊張感も少し収まり、喉の乾きを覚えた。


 「ありがとうございます。それじゃあオレンジジュースをお願いできますか」


 「オレンジジュースですね。かしこまりました。可愛いお嬢さん、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。ウチの代表は依頼者にはとても優しいですから」


 微笑みを残して立ち去る女性と入れ違いに、部屋の奥の壁の影から大きな人影がソファに近づく。


 壁に5つ程設置されている淡い黄色の照明灯が、まるでロウソクのような穏やかな明かりを灯している。


 年代物のテープルを挟んで、絵里の向かい側のソファに人影が腰を下ろした。大きい、背も高いが肩幅は広く胸板も厚い。


 「代表の大神(おおかみ)です」


 電話で聞いた声よりも重く掠れた声が流れた。いつの間に出されたのか、テーブルには漆黒の名刺が置かれていた。


 「昨夜は遅い時間に失礼しました。はじめまして、三原絵里です」


 「絵里さん、早速ですが依頼内容をお話しください」


 妹の真理が一昨日の昼に友人宅に出かけ、電話連絡さえないまま行方不明であること。友人宅にもたどり着いていなかった等手短に説明した。


 話の途中で、先程の若い女性がオレンジジュースをグラスに3つ、小さな器を1つテーブルに並べ、そのまま代表の隣のソファに腰を下ろした。


 照明が当たらぬ場所に濃く佇む闇の一部が一瞬蠢き、テーブルに闇色の小動物の形を創る。黒猫が小さな器の中のオレンジジュースを舐めている。


 「絵里さん、それじゃあ妹の真理さんを探せばいいのね。例えどんな状態であろうと」


 依頼内容の再確認は、代表の大神ではなく助手と思われる『夢子』から行われた。出張費や武器調達などのその他諸費用もなく、全て10万円で対応してくれるとのことであった。


 リックから封筒に入れた10万円を、祈るような気持ちでテーブルの上に置いた。


 「料金は、依頼業務終了後にいただきます。それが決まりとなっていますので」


 夢子がニッコリと微笑んだ・・・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る