第17話 闇の中
闇に埋もれた山梨県小菅村にある温泉施設の広い駐車場。約束の予定時間である2時までは、まだ20分ほどある。
深夜の温泉施設の広い駐車場に、駐車車両など本来あるはずがない。しかし今夜は裏組織間での大きな取引がある。邪魔する組織の襲撃も十分に考えられた。
東京は立川に本拠地を置く3大組織の1つである南口商工会、通称『南商』と山梨の最も大きい組織である『甲州会』との取引が行われると、裏世界では既に情報が流れていた。
裏世界における取引の大きなものは、武器、麻薬、そして食料である。今夜の取引は食料、それも4tものコンビーフ缶の取引があると噂されていた。
東京、山梨はもちろんその他近隣にある大小の裏組織が、得られる利益と失う戦力を秤にかけて、獲物を狙うのは当然のことである。
駐車場の深い闇の中に潜む取引を邪魔する者達を排除し、大量の食料を何としても南商まで持ち帰らなければならない。
成功すれば南商No.2の地位を確実なものにできる。仲田は調達部の第1隊長から南商のNo.2である調製部長につい最近昇任したばかりである。
まだ20代後半という若輩で、南商にある調整部、戦略部、調達部の3部のうち、筆頭の調整部長に飛び級で昇任したやり手である。
南商には前澤会長の下に3人の部長、その下の5人の幹部の9人で構成する執行部がある。
先日の戦闘で死亡した調整部長の後任には、No.3の戦略部長かNo.4の調達部長の横滑り異動が一般的であり、場合によっては多大な功績により幹部からの昇任もなくはない。
しかし各部の第1隊長から数段飛び越して調整部長に昇任するなど、組織の中でも異例の人事であった。
表立って口に出す者はいないが、当然内部での不満ややっかみ等も強く、この取引で失敗すれば平幹部への降任も必至と考えられる。
仲田は何としても、この取引を成功させなくてはならなかった。本来、食料調達は調達部の管轄であるが、会長からの特別指名により仲田が任された取引であった。
戦略部から、第1隊長の金井ほか8名の特に戦闘力が高い隊員を選別し、今回の取引に同行させていた。
暗闇の中で3台の車に仲田の緊張した声が響いた。
「1号車、3号車、運転者を除く戦闘員6人は降車し、東方向の駐車場最上部まで約150m移動。敵がいたら銃を使わず音を出さずに殺せ。1号車、3号車は戦闘員に続いて、ライトを消したまま駐車場最上部まで移動しろ」
駐車場は緩やかな傾斜地となっており、見晴らしが良く攻撃にも有利な、最上部まで移動する戦略である。
先乗りした他組織の襲撃隊がいれば、甲州会が到着する前に叩き潰しておかなければならない。
この肝心な時にガード役の魔人さまはいつの間にか消えて不在である。2m先は何も見えぬ漆黒の闇の中、出発前の打合せで頭に叩き込んだ駐車場の地図を頼りに進む。
用心しながら5分ほどかけて最上部に近づいた時、目の前の闇の中、蛍のような赤い光が灯った・・・・・
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