第27話 真紅の闇
悲鳴さえも発せず、血飛沫をあげて次々に倒れる7人。むせ返るような血臭の中に、影が3つ浮かんだ。
右側に巨大な人影、中央には闇の中に白く浮かぶ美しい女性の顔、左側には金色の目が光る牛ほどの黒い獣の影3つ。
中央の影から、まるでこの場に不似合いな甘えた声が闇に流れた。
「ごめんなさい。お待たせしちゃったかしら」
獅子王が表情さえ変えず、感情を押し殺した声で答える。
「誰だ・・・・・」
あっという間に部下の7人は血の海に眠り、残るは獅子王と白虎王の2人のみである。
「あたしたち、ゴミの掃除屋なの」
吹き付ける強烈な殺気が顔を叩く。コイツらだ。豹も狼も皆殺しにしたのは、間違いなくコイツらだ。たったこれだけの数で・・・・・
たった今、一瞬に7人の部下を倒したコイツら、凄腕のプロの殺し屋集団だろう。
白虎王は、COLTトマホークCT447を右手に構えている。米国銃器メーカー、コルトの手斧でハンドルも全てが金属製である。全長約336mm、重量約1800g、ブレードもハンドルも1075高炭素鋼の逸品である。
獅子王も、既に右手に日本刀を抜刀していた。肥後国菊池正国の同田貫正国で「折れず曲がらず同田貫」と讃えられる剛刀である。
「多人数のプロの戦闘集団かと思ったが、仲間をやったのは、どうやらアンタ達のようだな」
「お兄さん達、ごめんね。もう時間がないから、あたしたち急いでるの」
甘えるような声とともに、押し寄せる空気の厚い壁のように、さらに殺気が膨れ上がる。
白虎王には黒い獣と若い女が、獅子王には巨大な人影が向き合う。
獅子王は概ね身長170cm、体重は80kgもなさそうな体躯ではあるが、微塵の隙もない。直心影流免許皆伝であり、剣を握ると魔神の強さと噂されている。
獅子王も他の3人と同様に『不死身』と呼ばれているが、無敵の強さからくるのだろうか、体の改造の有無は不明である。
白虎王は巨人だ。2mはゆうに超える身長で、体重も150kgはあるだろう。超人ハルクに似た容貌のため、改造人間と誤解されているようだが、これも改造の有無は明らかではない。
しかし白虎王の並外れた怪力は、生まれつきのものであり、特に握力は300kgを超える。分厚い広辞苑を両手で千切るほどだ。
闇の中に達人対魔人、超人対美人と魔獣が向き合う。
「お前たちと戦う理由はない。今すぐ、ここから消えろ・・・・・」
闇さえ凍る低く掠れた声が囁く。
「ふざけるな。仲間を皆殺しにされてこのまま帰れるか」
正眼に構えた同田貫正国が迸るような殺気に煌めく。胸の前に構えたCT447が燃え上がる殺気に発熱し揺らめく。
「地獄で仲間に会いたいか・・・・・」
何の感情もない。ただ冷凍庫から流れ出る凍える冷気のような掠れた声が、戦い開始の合図となった。
「ガシャッ」
1つではない。幾つもの激突音が一瞬に流れ、闇が一瞬真紅に色づいた・・・・・
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