きくぜっ
「コーヒーをどうぞ、シャルロッテ様」
ガチムキ執事のアーノルドがカップを差し出した。
白いテーブルクロスのかかった丸いテーブルの上に三段のケーキスタンド。
サンドイッチとミニケーキ、それと、厚めに焼かれたチョコチップクッキー。
「コーヒーはアメリゴン……」
「アメリゴ合州国の上級階級の様式なのジャ」
ティータイムの作法のことだ。
アーノルドが小さくうなづいた。
アーノルドは、マリアつきの執事で二十代前半。
「マリア嬢はアメリゴ合州国の出身なのかヤ?」
「マリアお嬢様のお母様がアメリゴの出身なのです」
「ほほう、上流階級じゃの」
マリアもアーノルドも少しアメリゴの上級階級なまりの宇宙共通語だ。
「よく見ればアーノルド殿も」
髪の毛の色と目元がマリアによく似ている。
ガチムキであることをのぞけば、なかなかにイケメンだ。
「はい、マリアお嬢様のいとこになります」
「そうか、アメリゴ合州国カノウ……」
シャルロッテが複雑な表情をした。
超大国、アメリゴ合州国。
過去に、ガゼフ王国と東和が別々にケンカを売ってボコボコにされた相手だ。
二国が合併した原因でもある。
シャルロッテが視線を動かした。
その先には、マリアとサクラギが
二人の会話が聞こえて来た。
「しかしマリアさん値段が高いっ」
「駐船料が普通の料金の三倍、ナノマテリアルは五倍もするなあ」
ここは海賊都市、サルベージ。
いわくつきの都市なのだ。
「うふふ、だいじょうぶ、ま~かせて」
「ほらっ」
マリアが、豊かな胸元から取り出したカードを頭の上に掲げた。
「コスモブラックカ~ド~」
「うわっ、マ、ママママリアさん、それって……」
慌てるサクラギ。
「うむ、使用限度無制限、デススター級宇宙要塞がその場で買える
「生まれて初めて見たノジャ」
フウ
ため息をついた後、すがめになって隣に立つアーノルドを見た。
アーノルドが控えめに頭を下げた。
◆
「
五層の多重装甲は、全体的に丸みを帯び女性的なシルエットになった。
名前も
「ドライバーは
レイカが言う。
「で、シャルロッテ姫が乗って来たタイプゼロは自分が使うことになった」
サカイだ。
十年前、物心つく前から戦闘機に乗り大戦中、零戦を駆りウルトラエースになった。
目の前には戦闘機体型の、零式艦上宇宙戦闘機。
「自分用に改造していくよ」
手にはタイプゼロの設計図が入ったタブレット。
「サ、サカイ様…… 何を?」
ピピピピピピピピ
「ん?」
サカイがタブレットを指で触りながら、ものすごい勢いで、ゼロ戦の装甲を削り始めた。
ただでさえ少ない装甲がほとんどなくなる。
白地に螺鈿細工など影も形もない。
残った装甲は、辛うじて操縦席周りのものだけ。
シールドブースターのシールドも半分になっている。
さらに……サカイが指をのばそうとしたのをレイカが止めた。
「ダ、ダメです、サカイ様」
涙目のレイカが止めたのは、なけなしの、”
事実上、防御力はゼロになる。
「いや、ほら、宇宙世紀の人も言ってるでしょ、当たらなければ……」
「サカイ様」
「……いなくなっては ……いやです」
レイカがうつむいて泣き始めてしまった。
「わ、わかった、
サカイがレイカを胸の中に抱きよせる。
「いなくなっては、いやです」
サカイは、レイカが泣き止むまで胸の中に抱き続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます