戦闘重機、益荒男(ますらお)、改め、撫子(なでしこ)。

touhu・kinugosi

第一章、コンペティション

でかいぜっ

「でかいっ」

「かたいっ」

「ふとましいっ」

「ふふ、どうですかっ、うちの益荒男ますらおはっ」


 金髪、青い目。

 ひっつめ髪にタイトスカート。

 身長170センチくらいのナイスバディエ(←巻き舌)。

 銀縁眼鏡をチャキリと上げる。

 超絶美人のお姉さんに呼び止められた。

 

「は、はあ」

 ここは宇宙戦闘機(Space、Fighter)のコンペ会場。

 たくさんの軍関係者や星系国家の関係者が参加している。

 周りには派手なハイビジカラーに塗られた新型機が並べられていた。


「え~と、最近の流行りは、小型軽量の可変機では……?」

 高速形態で移動。

 人型に変形して戦闘。

 最新の戦闘ドクトリンだ。


 お姉さんが力いっぱい勧めてくる、四角くくて巨大な金属の塊を見上げた。

 ところどころに塗られた、黄色と黒の縞々しましま模様で、戦闘機感は皆無である。

「……重機……?」


「まっ、お客様はお目がお高いっ」

「”芋洗坂いもあらいざか総合土建会社”製、万能重機、”頑轍がんてつ”をもとに開発された」

ヘビーバットルマッシーーンッ」


益荒男ますらおっっ」


「満を持してっ」

「ロールゥッ、アウトゥッ」

「ですっっ」


 ドド―――ン


 パチ

 パチパチ

 オ――――

 会場からまばらな歓声と拍手。


「いやあ、どうもどうも」

 お姉さんが四方に頭を下げた。


 その隙にそ~と逃げようとした腕を、

 がしっ

 とつかまれた。


「で、お客様のお仕事は何をされているのですか?」

 にっこりと笑うお姉さん。 

 ――逃げ遅れたっ。

「え~と、フリーの操縦者パイロットを」


「まあっ、傭兵マークスさんですかっ」

 両手をつかまれる。


「い、一応」

 ――逃げられないっ。


「で、うちの益荒男ますらおはどうですか?」

 ――お姉さんの顔が近い近い。

 自分の顔が熱くなるのを感じる。

「え~と、大きいですね」

 周りに展示されている宇宙戦闘機(S、F)の、1,5倍から2倍くらい。


「そうでしょう、そうでしょう」

 うんうんとうなずくお姉さん。


「人類が動物の骨をふりまわしていた時代から、殿は大きければ大きいほど良いと、決まっているのですよっっ」


 ふっふ~~ん

 胸を張るお姉さん。

 バルルンッ

 ――なかなかボリューミイな胸部装甲。


「……女性にも当てはまるかも……」

 ――いや、”ぎたるはおよばざるがごとし”派の男性もいるはずだ。

 少し反省をする。

 ――”片手で包んであげる”派は……これ以上はやめておこう。


※ ”おっきいことは良いことだ”派(巨乳派)

  ”ぎたるはおよばざるがごとし”派(バランス派)

  ”片手で包んであげる”派(チッパイ派)


「?」

 にっこりと笑うお姉さん。

 改めて大きくて四角い機体を見た。

 ところどころにパイプ状のガード。

 ――足は……

「着陸装置……?」

 ――小型の宇宙船用の……?

 アクチュエーターむき出しのソリみたいなやつ。

 

「うふふふ、宇宙世紀の人が言ってましたよね」

「足はかざりだと」

「うちのえらい人は分かってるんですよっ」

 ふっふ~~ん


「せまい所で歩けないと困るんじゃあ」


「オプションでキャタピラーがつきますよっ」


「そ、そうなんだ」

 ――重機?

 にこにこと笑うお姉さん。


「ふふふ、それよりも見てくださいよ、盾の裏に装備されたをっ」


「長くて太くて硬い」

「パ、パイルバンカー《巨大杭打機》っっ」

 ――重機??


おとこの武器はこれでしょおお」

 ――武器???

 お姉さんが自分の両肩を持ってガクガクと揺さぶってくる。


「そ、そそ、そうですね」


「試乗も出来るんですよっ」

「撃ってみたくありませんか? パイルバンカーッ」

 くわっ

 お姉さんが目を見開いた。


「え~と、土方工事には興味はないんですが」

 ――地面に杭を打ち立てる趣味はないかな~


「! 勘違いしていますねっ、ノンノン、これは武器ですよ」

「駆逐艦クラスの装甲なら軽く抜きますよ」


「駆逐艦って、対艦装備じゃないですかっ」


「イエ~ス、浪漫ろうまんですねえ」

 うっとりと笑うお姉さん。

「ろ、ろうまん」

 蠱惑的な笑み。


「うふふ、300ミリウルトラカーボン装甲を貫く快感……」

「はあ、はあ、体験したくありませんかああ」

 横から肩を抱いて来た。 

 耳元から聞こえる官能的な熱い声。

 抱いて来た方の腕に柔らかい感触が。

「快感」

 ゴクリ

 自分の足がふらふらと操縦席の方に歩き出した。

 お姉さんが完璧なカーテシーで送り出す。


「そこまでだあっっ、イモアライザカ・マリアア」


 はっ


 背後から聞こえた大きな声で正気に戻った。


「よくもこの前、客を横取りしてくれたなあ」


「よ、横取りっ」

「う、売れたんだっ、この機体っ」


 ビシッ

 後頭部にお姉さんの鋭い突っ込みが入った。 

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