おとすぜっ

 ビイイ、ビイイ


「宇宙戦闘機の交戦可能距離になりました」

「操縦者は、宇宙戦闘機に搭乗してください」

 戦艦テルピッツの格納庫に若い女性の声の放送が流れる。


「ははは」

「やるかっ」

「どちらが落とすか賭けないか」

「生意気な平民におもいしらせてやるっ」

 貴族の令息たちが笑いながら自分たちの機体に乗り込む。

 令息たちの機体のハッチが締まると近くの警告灯が赤から緑に。

 機体の気密が確保されたからだ。

 全ての警告灯が緑になる。

「格納庫内の空気を排除します」

 赤い警告灯が天井を回る。


 シュウウウ


 天井と床のスリットが開き空気が抜かれ始めた。


 カラン、カラン


 整備士が片付け忘れたレンチやスパナが吸い込まれてスリットの入口の格子に当たる。

 それからしばらくした後。

「発進準備完了」

 無線が機体に入った。


「だ、だめだこりゃ」

 リヒテが頭を抱えていた。

 物見遊山な操縦士に、工具の片付けも出来ない整備士。

 戦況表示を見ると、とっくの昔に益荒男ますらお(現、撫子なでしこ)と零式の二機は出撃し、有利な位置についている。

 このまま逃げ出したくなった。

 が、

「リヒテ機、出るぞっ」

 気を取り直して出撃コールを出した。


「了解」

 緑の警告灯がもう一度赤に。

 

 クルン


 という感じで床が紅い機体ごと180度回転した。

 満天の星空、前には艦体の横が見えている。

 と同時に射出アームで艦に平行に投げ出された。


 グイッ


 リヒテがスロットルレバーを引き加速。

 90度ロールしての艦の横に飛んだ。

 主砲を撃っているのが左に見える。


 壁が180度回ってリヒテ機が艦外に。

「行くぜっ」

 その裏側に後ろの令息の機体、BF109がスライドした。

 リヒテ機が投げ出されると同時に180度回転。

 二番機がリヒテ機とおなじように投げ出される。


 180度回転式、出撃装置カタパルトである。 

 素早く宇宙戦闘機を展開することが可能なのだ。


 戦艦テルピッツから、リヒテのFW190も含めて六機。

 ドイッチェランド装甲艦から合わせて六機。

 計十二機の宇宙戦闘機が出撃。


「編隊をく……」

 リヒテが言い終わる前に、


「お先に」

「手柄は俺がもらう」

「待ってくださいよ」

 令息たち全員がバラバラに加速して前に出た。


「う、うわあ、味方の艦砲射撃の前に出やがった」

 戦艦たちは砲撃を続けていたのだ。

 あわただしく砲撃が止む。

敵味方識別装置IFFに感謝しろっ」

 味方を誤射しないために安全装置が働いたのだ。

 それに気づかず前進し続ける。

「……もう好きにしろっ」

 リヒテは一応、宇宙戦闘機部隊の隊長だがもう諦めてしまった。

 敵にまっすぐ飛び込んでいく令息に

「敵に狙撃手スナイパーがいたらいい的だな」

 リヒテはため息をつきながらつぶやいた。



「撃ってくれと言わんばかりなのジャ」

 撫子なでしこをのガンナー席に座ったシャルロッテが真っ直ぐ飛んでくる機体たちを見て言った。

 普通なら狙撃を恐れて、編隊を組んで的を散らすか、不規則飛行で狙いを定めさせないようにする。


「何か初出撃の新兵が異常に興奮しているようですワ」

 後部ドライバー席のレイカが鋭いことを言った。

 令息たちはまさにそのような状態である。


「一番近い機体から、いちから壱拾弐じゅうにまでナンバリング」

 戦況表示の敵機体に番号が打たれる。

いち番から狙撃じゃ」

 操縦席に照準レティクルを会わせるも、

「〇してしまうと厄介じゃノウ」

 シャルロッテは左のシールドブースターに狙いをずらした。

「発射ジャ」


 バッカアアン

 

 発射時の振動が機体を伝わって操縦席内の空気を震わす。

 重力制御で消し切れない反動がライフルを少し上にそらさせた。

 壱番機は左のシールドブースターを吹き飛ばされ錐もみ。

 斜め後ろにいた五番機にぶつかっていく。

「二機、撃墜ジャ」

 シャルロッテが言った。

「次弾装填、なのジャ」

 シャルロッテは、サカイに鍛えられてかなり優秀な狙撃手スナイパーなのである。


「ふうむ、初心者ばっかか」

 撫子なでしこから少し離れたところにいるサカイが言った。

「だが」

 タイプゼロのコックピッドのタッチパネルを操作しながら、

「この機体は、エースだな ……」

 サカイは、無感情かつ冷徹な目で敵機体の動きの分析をしている。

 機体には、”壱拾弐じゅうに”と番号が振り分けられていた。

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