うちあうぜっ

 ズウウン


 やまとんの艦橋内の空気を、宇宙戦艦大和型砲台の発射時の振動が揺さぶった。

 今、やまとんは青い惑星を背に三隻の戦艦と大砲戦の真っ最中である。


「ふはは、当たるものか」

 サクラギが大砲の操作レバーをせわしなく操りながら不敵に笑う。

 すばやく照準を定め引き金を引く。


 ズウウン


「大砲の命中率は、良くて大体三十パーセント」

「爆発時の熱で被害を与えるミサイルは、視覚(←カメラで照準をつける)も含めた光学迷彩装備のステルスと、優秀なレーダーのジャミング装置、電磁防御装置バリアーの発達により有効な兵器で無くなっているんだ」

「さらには、コルトバ星人である、ユキメ族の種族特性スキル、”熱量奪取ヒートテック”を乗せた、”永久凍土装甲”に至っては熱量兵器をほぼ無効化するのだよ。

恒星におちても10分くらい耐える代物ではあるけどね」

 大艦巨砲主義を掲げ、砲術の博士論文も書いているサクラギが弾んだ声で言った。

 楽し気に語るサクラギをマリアが微笑ましそうに見つめている。


 ※捕捉:”大質量弾”の発射時の反動は重力制御で対応。”魚雷”は、ダークマターソナーで命中率は高いが速度が遅いので迎撃が可能。

  

 今の海戦は、優れた技術により(宇宙的に)目と鼻の先の距離で、”大質量弾”をハンマーのように殴り合う野蛮な時代に逆戻りしているのだ。


「うむ、砲撃は頼む」

 海野、九三艦長がサクラギに頼もしそうに言った。

「アーノルド君、不規則航行を徹底してくれ」


「了解です、艦長」

 操舵席に座る、ガチムキ執事のアーノルドが答えた。


 やまとんは、九三艦長の的確な指示とアーノルドの卓越した操舵技術で、三隻の戦艦からの集中砲火を受けてもかすりもしない。



 小さな重機輸送船は、戦艦テルピッツの前部二連装主砲二門と、ドイッチェランド装甲艦パンツァーシップの前部三連装主砲一門が二隻分の砲撃を受けてもかすりもしない。


「なぜ当たらないっ」

 アウディー侯爵が地団太を踏んだ。

「一発でも当たれば沈められると言うのにっ」

 バイエルン伯爵がイライラしたように言う。

「…………」

 アルフレッド第一王子は無言を貫いていた。



「”惑星軌道効果”を知らないのか?」

 リヒテが、戦況をモニターで確認しながら呆れたようにつぶやいた。

 ”惑星軌道効果”とは、惑星の近くでは砲撃の命中率が著しく落ちる、ごく基本的な砲術の知識である。


 ”大質量弾”は、惑星の引力の影響をまともに受け真っすぐに飛ばない。

 照準をつける光学機器が惑星の大気の影響を受け、実際の照準に誤差が生じる。


「まあ、十分に経験の積んだ照準用AIに任せるか、砲術長のカンと経験に頼るかだが……」

 ――こちらはヴァージン(戦闘に)AIのようだし、クルーはもっとひどそうだ


 教科書セオリー的には、装甲の厚い艦が前進して囮になって、他の艦が左右に横向きに展開。

 後部砲塔も使って十字砲火を浴びせる。


「が」


 ゴオン


 やまとんの砲弾が、装甲に弾かれた音だ。

 左右の装甲艦にも同じような命中弾がある。


「……うまいな」

 やまとんの方が惑星に近いから砲撃の条件は悪い。

 それでも、ほとんど無駄弾を撃たない。

 照準用AIを載せてなさそうだから、よっぽどうまい砲術長がいるのだろう。


 硬い艦を前に出させず、左右の艦を横に向けないようにけん制しているのだ。


 硬い艦とは、アルフレッドが乗る戦艦、”テルピッツ”。

「囮には使えんだろうな」

 左右の艦は、”ドイッチェランド”装甲艦パンツァーシップ

「侯爵と伯爵に、命中弾のある中で艦を横にむける度胸は無いだろうな」

 結局、三艦が横並びでジワジワと近づいていくことになった。


「ふうう、”穴熊作戦”が順調に進行中……だな」


 リヒテが深いため息と共に言う。

 戦況図にはわかる範囲で撃った砲弾とその種類が表示される。

 習慣的に、敵味方の砲弾の数を数えていたリヒテは、


「?、そろそろ輸送船の弾薬が切れるんじゃないかな」

 戦艦の弾薬が残り半分を切ったのだ。

「同じくらい撃ち返してるよなあ」



「……………………」

 レイカが、撫子なでしこのモニター越しに、自動給弾装置で上に運ばれていく砲弾と薬包を何とも言えない表情で見ていた。

 今、やまとんの宇宙戦闘機用の格納庫の後ろのほぼは弾薬で占領されている。

 ――嬉々として弾薬を積み込んでいるサクラギ(元)主任を見た時、ついに発〇したと思いましたヮ


 まあ、今彼は嬉々として砲弾を撃ちまくっているのだが。

 ちなみに、昔のガンシップのように弾がひとかすりでもして弾薬が引火したら、大爆発を起こして跡形もなくなるぞ。


ビイイ


「告げる、こちら艦長、敵艦が宇宙戦闘機発進可能距離に到達した」

「宇宙戦闘機発進準備、いつでも出れるようにしておいてくれ」


「了解っ」

「です」

「なのジャッ」

「ですヮッ」

 操縦席の三人が答えた。


「エンジン始動っ」


 ゴオオオオ

 撫子なでしこの重低音の重機用エンジンが吠える。


 キュウウウ

 ゼロ戦の”栄製星型十二気筒発動機”が始動した。


 穴熊作戦の第二段階、”宇宙戦闘機戦”が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る