やるぜっ
三隻の戦艦が銀色の波を蹴立てて通常空間に現れた。
三隻は横一列に並んでいる。
アルフレッド第一王子の戦艦、”テルピッツ”と、”アウディー”侯爵と、”バイエルン”伯爵が率いる”ドイッチェランド
奇しくもここに、ニャンドロスとの戦争継続派の主な貴族がそろったのである。
青い無人の植民惑星を背に、宇宙戦艦、”やまとん”が三隻の戦艦と対峙していた。
「艦長、入電です」
マリアが、敵とも味方ともまだわからない三隻からの通信を報せる。
「メインモニターに出してくれ」
海野、九三艦長が言った。
艦橋の前の天井に斜めにつけられたメインモニター。
三分割された画面に三名の男性の姿が映る。
左は、不健康そうにこぶとった貴族の男性。
真ん中は、無表情で鮮やかな金髪の青年。背後に黒髪のメイドを従える。
右は、痩せぎすで陰険そうな貴族の男性である。
「左から、”アウディー”侯爵と、”アルフレッド”第一王子、”バイエルン”伯爵じゃノウ」
シャルロッテが、
後部座席には、パイロットスーツ姿のレイカ。
シートの下には金髪縦巻き、ドウ―・リー・ルのカツラ。
「追いついたぞ」
こぶとった男性が嫌らしく笑いながら言う。
「ふふ、観念しましたか?」
痩せぎすの男性が嗜虐的な笑みを浮かべて言った。
「…………」
アルフレッドは無言である。
「うむ、”バイエルン”伯爵は戦時中、ニャンドロスの女性と東和人の女性に乱暴をしたという噂があるノウ」
「それは……」
レイカが言葉に詰まる。
平民に何をしてもいいという貴族の
「ぐふふ、お前たちが、”くすんだ金髪”(←東和の血を半分持つシャルロッテのこと)をかくまってるのは知っている」
アウディー侯爵だ。
「素直に渡せば楽に〇してやるぞ」
バイエルン伯爵である。
「それとそこの女あ、」
「いい女じゃないか、こちらに差し出せば命くらいは助けてやるぞ」
バイエルン伯爵が通信席に座るマリアを指差しながら言う。
相変わらず好きだなあという表情でアウディー侯爵がにやにやと笑った。
まあ、十中八九、嘘だろう。
マリアが不快そうに眉を歪めた。
サクラギから殺気が吹きあがる。
「あ~、こいつら、〇っちゃおうか」
普段はひょうひょうとしているサカイが珍しく不快そうに言った。
「げへへ、どうする~」
ふざけて聞いてくる二人の貴族。
「馬鹿めっっ」
今まで苦虫をつぶしたような顔をしていた、海野、九三艦長が一喝した。
「な、ななななんだとお」
アウディー侯爵だ。
「き、貴様ああ、高貴たる我々に、さ、逆らう気かあ」
バイエルン伯爵である。
反攻してくるとは思いもよらなかったようだ。
「おのれえ……」
「マリア君、通信を切りたまえ」
海野、九三艦長がマリアに優しく言う。
「はいっ」
メインモニターがブラックアウト。
マリアが通信を切った。
「……では、はじめようか」
「……戦争を教えてやろう」
「全艦、第一種戦闘態勢、砲火を開け」
落ち着いた声で海野、九三艦長が全艦に告げた。
◆
赤髪をソバージュにした女性である、”リヒテ・フォーエン”女男爵は、戦艦テルピッツの宇宙戦闘機の格納庫の大型のモニターで通信を見ていた。
戦艦の左右の壁に三機ずつ宇宙戦闘機が駐機されている。
頭上の壁(天井)に三機戦闘機が見えた。
横には紅く染められた我が愛機、”FW《フォッケウルフ》190グスタフ”。
後ろに二機、”BF―109”。
発進用カタパルトに移動されていた。
『いい女じゃないか、こちらに差し出せば命くらいは助けてやるぞ』
「うわあ、最悪だ」
モニターから聞こえて来た、バイエルン伯爵の言葉にドン引きだ。
「父上だけずるい」
「うらやましい」
「確かに上ものだ」
「自分にも分け前は無いのかあ」
周りにいる貴族令息の反応にさらに引いた。
リヒテは、バイエルン伯爵が女性に乱暴を働いていたという噂が本当のことだと確信する。
さらに周りの貴族のボンも同類だということも。
格納庫内は無重力である。
両手足を振り愛機の操縦席に向かう。(←AMBAC)
十字のカメラフレームのついた頭部が前にスライドしている。
その下にある操縦席に体を滑りこませようとした。
「おや、隊長は操縦席に入るので?」
貴族令息がにやにやと笑いながら聞いて来た。
あからさまにそういう視線である。
「チッ」
リヒテは舌打ちをして愛機の操縦席を閉じた。
操縦席内で引き続き通信を見る。
「しかし……いたなあ」
――マリア女史、芋洗い坂の社長令嬢だ
「さらに」
――海野、九三艦長かあ
昔、東和とアメリゴ合衆国が戦争した時の名艦長だ。
”穴熊作戦”の発案者でもある。
「ということは」
――操舵席のガチムキの青年執事は、アイアンフェラー
マリア女史のお目付け役というところか。
「そして」
――砲術長って
ミツルギインダストリーの主任でなかったっけ
宇宙戦闘機に波動砲を載せたクレイジーな人物だ。
「それに」
――ウルトラエースのサカイ・イチローかあ
「……東和に亡命しようかなあ……」
『馬鹿めっっ』
リヒテは海野、九三艦長の一喝に少し胸がすく思いがした。
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