みるぜっ

 ”やまとん”の休憩室である。

 うす暗い部屋に自動販売機の光が淡く光る。


「豊かな海ですヮ」

 レイカが四角く区切られた窓の外を見て言った。


 薄くそして少し暗く透き通る青い世界。 

 上には、ところどころに銀色の波が立つ透明の面が見える。

 満天の星空が広がる中、時々すごい速さで恒星や惑星が通り過ぎていく。

 ここは、ダイブ《ワープ》空間。

 時間をさかのぼりながら距離だけが進む場所。


 宇宙戦艦、”やまとん”は、ダイブワープ中である。


「そうだね」

 隣に立つサカイが答える。


 少し離れたところに、三十センチくらいのイワシの群れが柱を作っている。

 時々、大きなアオザカナが、その群れに飛びこんだ。

 他にも”やまとん”と同じくらいの、”SAKANA”が並走したりすれ違ったりした。

 ”SAKANA”とは、”宇宙空間適応型魚類”のことだ。


 ボエエエエエエ


 時空を超えて艦内の空気を振動させた。


「タイタンホエールですヮ」

 レイカが艦の下の深い方を指差す。

 ”やまとん”の三倍近い大きさのシロナガスクジラが、銀色の波を立てて泳いでいた。

 

「宇宙は生命に満ち溢れているな」

「ええ、そうですヮネ」

 

 美しくも壮絶な景色を前に、窓の前で並んだ二人の距離がほんの少し小さくなった。



「豊かな海だな」

 艦長席に座った、海野九三艦長が言った。

 艦の下方には巨大なクジラ。

 鳴き声が聞こえて来た。

 操舵長のアーノルド、砲術長のサクラギ、通信士のマリアが振り向いてうなずく。

 その時だ。


 ピピピピピ


 マリアの前にあるコスモレーダーが電子音を立てた。

「艦長、レーダーに感あり」

「戦艦級の反応、三」

「艦種識別します」

 マリアがコスモレーダーを操作した。

「…………戦艦テルピッツ、一とドイッチェランド級装甲艦、二、急速接近中!!」


「やはり、追いつかれたか……」

「惑星、no、753へ移動」


「了解」

 アーノルドがハンドルを操作。

 しばらく移動した。

「no、753に到着」

 艦が停止すると同時に、面上に青くて丸い惑星がパッ、ピタッという感じで現れた。


「浮上」

 艦長が言う。

 アーノルドがレバーを操作。

 艦が面に向けて上がっていく。


「ダイブアウトッ」


 面の表面に銀色の波を出しながら艦が完全に浮かび上がった。


「ダイブワープ終了」

「ダイブ《ワープ》空間から通常空間に出現、艦に異常はありません」

 マリアが言った。


 少し離れたところの銀色のさざ波が三つ現れた。


 ビイイ、ビイイ


 艦内に少し甲高い乾いた警告音が響く。


「総員、第一種警戒態勢、パイロットは各機で待機」


「…………いこうか」

「……はい……ですヮ」


 二人が休憩室から走り出した。

 

 背後には青い無人の植民惑星。


 小さいが歴史的には大きな海戦が始まる

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る