もらうぜっ

「もうっ、たまりませんヮアア」

 喜びの声を上げるレイカ。

 複数の工事現場をはしごして、実家の貧乏侯爵家への仕送りが三倍になったらしい。


 サカイ達は今、益荒男ますらおの機種変換訓練(土木工事)を終えて、宇宙戦艦、”やまとん”の母港に帰ってきていた。

 ”芋洗い坂総合土建会社”の所有する人口の小惑星で、ここで、”益荒男ますらお”の開発が行われている。


「やはり、”指”が必要ですよ」

 サカイは言った。

 自分の前にはタイトなスーツ姿のマリア。


「そうねえ」

 マリアが答える。


 益荒男ますらおの指は三本だ。

 ツルハシやスコップを持つにはいいが、銃などの武装は持てない。

 だが、武装を操る指や、武器でねらいをつける管制装置プログラム重要軍事機密トップシークレットだ。

 さすがに、”芋洗い坂”はノウハウを持っていない。


「十年単位ですよ」

 これらをゼロから開発するにはそれくらいかかる。


「うふふ、だいじょ~ぶ、ま~かせて」

 マリアが胸を張った。

 豊かな……以下略。

「ちょっと心当たりがあるのよねえ」


「はあ」


「というわけで行ってくるわっ」



 屋台だ。


 ガタン、ガタン


 銀河鉄道の高架下、定期的に鉄道が宇宙に旅立つ。

 屋台の提灯には、”ODEN”と書かれていた。


 ザザザ、


 ま~〇しさに~〇けた~~

 いいえ~、世間に負〇た~~


 ラジオから流れる、”Old、ショーワ”歌謡。


「ば~ろう、チクショウメ~」

「おやじっ、”バクダン”だっ」


「へいよっ」

 屋台のおやじが、白衣を着た男の前にコップを置く。


 トクトクトク


 ”バクダン”とは、戦後物のない時代に作られた闇酒で、

 70度くらい。

 ちなみにメチルは駄目だぞ、失明するから。


 グイッ


 白衣の男が一息に飲み干す。


「な~にが左遷だ~」

 ヒック

「ちょ~と会社に隠れて、”波動砲”作っただけじゃねえか~」


「お客さん、大変でしたねえ」

 オヤジが合の手を入れる。


「あの部長め~」

 こぶとった部長のいやらしい笑いが頭に浮かぶ。

 ――チミ~、とんでもないことをしたね~

 ――”資材管理部”に左遷だよ~

 ――グヒヒ、シルフィードの開発は僕が引き継ぐ(もらう)から~

 左遷された上に、ほぼ終わっている、”シルフィード”の開発の功績を横どりされたのだ。


「おやじっ、バクダンおかわり」

「それと、スジ肉と大根」


「へいよっ、スジ肉と大根」

 皿に移される。

 コップにお酒を注いでいると、


「隣、空いているかしら」


 金髪眼鏡、ビジネススーツの女性が、白衣の男性の隣に座った。

 豊かな胸部装甲である。

 

「いらっしゃい」


「店主、”カストリ”をお願いできるかしら?」


 ”カストリ”とは、戦後、闇に出回った劣悪な密造焼酎の総称である。


「はいよっ、”カストリ”一丁」


 トクトクトク


 女性の前のコップに注がれた。


「大根とちくわをお願い」


「まいどっ」


 女性が男性に気安く話しかける。

「まああ、左遷されたんですね~」


 ヒック

 

「”Z2”から”ゼファー”、そして、”シルフィード”と手塩にかけて育てた機体が奪われたんだよ~」

 ちなみに北米仕様が、”Z1"。


「ちょ~っと、隠れて波動砲つくっただけなのに~」

「まっ、それは大変ね~」


 隠れて会社の資金を使う。

 世間ではこれを、”横領”という。


「”大艦巨砲主義”のどこがいけないんだ~」

 白衣の男性のポリシーだ。

「そうよ、そうよ、殿方の持ち物は大きい方がいいのよっ」


「うふふふふ」

 金髪女性の目があやしく光る。


 しばらくした後女性は、出来上がった男性を連れて、安っぽいネオン輝くホテル街へ姿を消した。


「うそっ……❤」


 痩せ気味の白衣の男性の持ち物は、正に、”大艦巨砲主義”だった。


 この日、芋洗い坂に、”優秀な科学者”と、”入り婿”が入ることになる。

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