かわるぜっ

 ガチムキの執事が後ろに立っていた。


「…………」


 会議室に益荒男ますらおの開発スタッフが集まっている。

 しばらくするとマリアが痩せぎすの男性を連れて会議室に入って来た。

「今日から一緒に働いてもらう、サクラギ・シュータローさんです」

 マリアが満面の笑顔で言った。


「え~と、お久しぶりです……?」

 サカイが歯切れが悪そうに言った。

「まあっ、サクラギ主任……ですヮ……」

 レイカが驚きの声を上げる。


「彼はミツルギインダストリーの、”シルフィード”の元開発主任よ~」

 彼は会社に無断で、”波動砲”を開発したことにより左遷されていた。

 それをマリアが、ハニト(ゲフンゲフン)……話し合いの結果、スカウトしてきたのだ。


「よ、よろしく頼む」

 サクラギが言う。

「うふふ、シューちゃんは優秀なのよっ」


「シュ、シュ―ちゃん」

 サカイだ。


 ピトッ 


 マリアがその豊かな胸でサクラギの腕をはさんだ。


「マ、マリア……さん」

「しかも彼と婚約したのよ~」

 マリアが、彼に体を密着しながら大きな声で言った。


「まあっ、おめでとうございます、ですヮ」

 レイカが喜声を上げた


「い、いつのまにか、そういうことになった」

 ――あれ、お、おかしい、ODEN屋で酒を飲んで……

 ――金髪の女性が……、それから記憶がない

 サクラギが青い顔をしながら言う。


「うふふふふ、すごかったわあ」

 マリアがサクラギの胸に人差し指でのの字を書いた。

「あ、それから、今日から益荒男ますらおの開発主任はシューちゃんになったから」

「えっ」

 と驚くサクラギ。

「それとお、”波動砲”も作ってほしいのお」

 可愛い婚約者からのお願いというところか。

「うっ」

 一瞬喜ぶサクラギ。

「これからよろしくねっ」

 マリアが大きな声で言った。



「なんてことをしてくれたんだ」

 ミツルギインダストリーの社長が重々しく言った。

 左右に重役が並ぶ。


「えっ……?」

 こぶとった部長が戸惑いの声を出した。

 サクラギを左遷したのは彼である。


「サクラギ君のことだ」


「ああ、彼は酷いですよ」

「会社にかくれて、波動砲を作っていたんです」

「グヒヒ、左遷しまして、彼のシルフィードは私が責任をも……」

 嬉しそうに報告する部長。


「サクラギ君が、芋洗い坂に引きぬかれたぞっ」


「グヒ、あのような社員はいらないでしょう」

 部長が厭らしく笑いながら言う。


「くっ」

「き、君は分かっているのかねっ」


「彼が、指(マニュピレーター)と制御装置のを持っているとっ」


「へっ、特許……?」


「そうだっ、芋洗い坂の弁護士団が、わが社からもぎとっていったわっ」

 

 芋洗い坂は土建会社だ。

 地周りのヤ〇ザなどとの交渉に強力な弁護士団を持っている。

 本来、特許は本人と会社と半々くらいの権利である。

 部長の一方的な左遷でもぎ取られた。


「大体、波動砲を作るくらいなんだっ」

「もともとサクラギ君は、だっ」


 専門は戦艦の大砲。

 彼の照準システムが素晴らしかったため、宇宙戦闘機の開発に回されていたのである。


「これから一機、宇宙戦闘機を作るたびに芋洗い坂に特許料を払わなければならなくいなった」

 マニュピレーターと制御装置のである。


「そ、そんな……」

 部長が青い顔で言う。


「君こそ左遷だよ……」


 武装のかなめである、マニュピレーターと射撃装置。

 これにより、シルフィードの開発が最低でも五年は遅れることになった。


「ううう」

 部長がその場でひざまついた。

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