かわるぜっ

 ガゼフ王国首都、ベーリンの軌道上にある第一軌道要塞。

 その港に停泊している宇宙戦艦、”テルピッツ”。

 アレク第一王子の専用艦である。

 その艦橋の一段高い所に、アレク第一王子が豪華な椅子に座っていた。

 アレクは、そこから艦橋が一望できた。

 

「第二王女を、『イケドリ』にするために出港せよ」

 チラリと斜め後ろに控えるメイドを見た。

「目的地は、海賊都市、”サルベージ”の東和側の出口」

「第二王女が、”トキオ”に逃げ込むのを阻止する」

 アレクが大声で言う。


「ハッ」

「了解しました」

「……う~ん、しかし」

 艦長帽を着た初老の男性が腕を組む。

 ――昔から用心深い(臆病な)アレク様が自ら出撃するとは

 ――しかもあのようなことを大きな声で

 無線を通して、港の管制に聞こえているかもしれない。

 艦長が、アレクに怪訝な視線を送る。

 ”エリザベス”と呼ばれる東和人メイドが、その視線を静かに見つめ返していた。


 アレクが船艦内の自室に移動した。


「アレク様、お茶をどうぞ」

 エリザベスが急須から湯飲みに、東和産のグリーンティー、”緑茶”を注いだ。


 ズズズ


 アレクが湯気のあがる湯飲みを少し熱そうにすする。

 

「お茶うけはYOーKANか」

 黒くて四角いものを爪楊枝で口に運んだ。


「ア、アレク様……?」

 少年侍従が信じられないものを見るような目で見た。

 ――ほんの少し前まで東和製のものをあれだけ毛嫌いしておられたのに

「ひうっ」

 ふと目を上げると。エリザベスの無表情な目と合った。

 エリザベスが、微かにうなずいた。


「こと……エリザベスの入れてくれるお茶は美味しいなあ」

 アレクが上機嫌で言った。



「第二王女を、『イケドリ』にするために出港せよ」

「目的地は、海賊都市、”サルベージ”の東和側の出口」

「第二王女が、”トキオ”に逃げ込むのを阻止する」


 録音された音声が流れる。


 黒髪が美しい三十代半ばの女性が、東和風の居室でお茶をしながら聞いていた。

 ここは、ガゼフ王国王宮内の、翡翠宮。

 ガゼフ第二王妃、翡翠ひすいの住居である。

 シャルロッテの母だ。


「琴子はうまくやっているようね」

 琴子とは、今エリザベスと呼ばれているメイドに変装している女性のことである。


 正確な名前は、”風魔琴子”という。


 アレクの元に送り込まれたクノイチだ。

 いつの間にか、部屋の隅に黒づくめで覆面の男が片膝をついて座っている。

「はっ」

 シャルロッテを襲撃する言質とアレクを直接戦艦で出撃させたことだ。

 第一王子が半分は血のつながりのある第二王女を、”イケドリ”にすると言っている。

 西方勢に巻き返しが出来るかもしれない。


「ふう」

「風魔のシノビは優秀なのだけど……」

 ――たまにやることが極端で、結果が予測できない時があるのよねえ

 翡翠ひすいが少し首をかしげて軽くため息をつく。

 まさか、配下のクノイチがアレク王子のになっているとは夢にも思わない翡翠ひすいであった。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る