とおるぜっ

「サカイさまあああ」

 レイカが金髪ドゥ・リー・ルを左右に振りながら叫んだ。

 レイカの目の前。

 艦橋ブリッジの四角い窓ガラスの向こうで、赤い炎に包まれる益荒男ますらお


「……大丈夫よっ、問題ないわっ」

 艦橋ブリッジのレーダー席に座るマリアが言う。

 炎の後には黒焦げの四角い機体。

 だがすぐに、機体の各所から小さな火花。

 爆炸ばくさくボルトが作動。

 周りにばらばらと焼け焦げた装甲が舞う。


「流石、益荒男ますらお何ともないのっ」

「五層の積層装甲チョパムアーマーは伊達ではないわっ」

「まだよ、たかがメインの装甲をやられただけよっ」


 焼け焦げた装甲を切り離し《パージ》。

 警告の為に赤く塗られた第一次装甲が露出する。

 生れたままの姿(←万能重機、頑轍がんてつのこと)になった。


 益荒男ますらおが赤い。


「これで通常のザ〇の三倍よ~」

益荒男ますらおが量産された暁には~……モガモガ」

 これ以上は危ない。

 マリアの口をサクラギが両手でふさぐ。


「こちらサカイとシャルロッテ、無事です」

「帰投します」

 サカイの緊張感のない声。

「サカイさまっ」

 レイカが艦橋ブリッジから格納庫に走る。 


「それと、艦を座標6、2、1に移動してください」

「師匠、”ガーゴイルルート”ジャナ」


「ガーゴイルルート……か」

 海野艦長が唸る。


「はい、海賊都市、”サルベージ”に避難しましょう」

 


 海賊都市、”サルベージ”。

 小惑星地帯アステロイドベルトは昔から交通の難所だった。

 難破した宇宙船を引き揚げる(サルベージする)為に小惑星地帯アステロイドベルトの中に都市がつくられる。


 海賊都市、”サルベージ”である。


 独自のルート、(例えばガーゴイルルートなど)をたどらなければ着けないため、いつしかな組織の拠点となった。

 サカイがいた、”ガゼフ解放戦線パルチザン”も少し前まで間借りしていたのだ。


 ガゼフ軍であろうとニャンドロスであろうとも、簡単には手出し出来ない無法地帯である。

 ちなみに、戦時中サカイはシャルロッテを、ほとぼりが冷めるまでここにかくまっていた。

 


 益荒男ますらおが艦に帰って来た。

 格納庫に空気が入る。

 紅く染まった益荒男ますらおの操縦席が開く。


 キッ


 レイカがサカイを責めるようににらんだ。


「あ、レ、レイカさん……?」

 サカイが怯む。


「あ、あのような、特攻まがいのことは……」

 ジワリと、レイカのまなじりに涙が溜まる。

「……もう二度と……しないでください……」

「あ、いや、戦時中じゃああれくらいは……」

「死んでしまったかと思いました……」

「五層の装甲が……」

「死んでは……嫌です……」

 レイカがうつむいてスンスンと泣き出してしまった。


「師匠……」

 ――何とかするのジャ

 シャルロッテが、レイカを親指で指しながら呆れたような声を出す。


「あ、ああ、わかった」

 サカイがシャルロッテに言う。

「ごめん」

「ん」

 レイカの小さな声。

 サカイが、うつむいて泣いているレイカをふんわりと抱きしめた。

 遠慮がちに胸に寄せる。

「反省してる、二度としないよ」


「……はい……」


 レイカが、サカイの胸にほんの少し体重をあずけたのである。




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る