ひくぜっ

「潜望鏡深度」

 ナハト・ラウフェンの隊長が言った。

 ダイブ空間にUボートが通常空間に近づく。

 艦橋の中心にある潜望鏡の取っ手を上にあげた。

 スコープを覗き込む。 

 宇宙空間に潜望鏡の先が出た。

 その視界の先には、おそらく魚雷の直撃を受けた大き目の宇宙戦闘機。

 そして、横を向いた重装甲艦と駆逐艦二隻。


 ――”文福茶釜ぶんぷくちゃがま”と、直掩の”豆狸まめたぬき”か

 ――シャルロッテ王女と前線を渡り歩いた歴戦の猛者だな


 その後ろに、巨大な大砲をつけた輸送艦モドキ(やまとん)。


 輸送艦モドキ(やまとん)の大砲。

 戦艦、”文福茶釜ぶんぷくちゃがま”の前後にある二連装砲二基。

 駆逐艦、豆狸まめたぬきの上下にある魚雷砲塔。


 全てがこちらを向いている。


 大き目の宇宙戦闘機な表面に爆作ボルトの火花、赤く染まる。

 輸送艦モドキに帰るようだ。


 ――魚雷十二本でほぼ無傷

 ――判断が早いっ、魚雷の進路から発射位置を割り出されたか

 一瞬隊長が顎に手を当てて考える。

 ――引き際だな

 潜宙艦の本領は、ステルスとダイブ空間からの奇襲だ。

 戦艦と、ましてや駆逐艦との正面対決は無謀である。


「反攻雷撃くるぞっ」

「全艦、デコイ魚雷と攪乱チャフ魚雷装填」

「敵爆雷にまぎれ一時撤退」


「当たるなよっ」

 ――これは完全に運なのだが


「了解っ」

 残りの四艦から返事が来た。


 敵の大砲から、”爆雷砲弾”と駆逐艦から、”魚雷”が発射される。


 ピピ―ン、ピピ―ン

 ピピピピ


 爆雷のダイブ空間の次元を振動させる探査音が、艦内の空気を振動させて音を出した。


 ドド――ン


 一瞬、艦内の赤い照明が消える。

 ガタガタと揺れた。

「爆発、至近っ」


「くっ」

「デコイ、チャフ発射、全力で離脱する」


「了解っ」

「三番艦、爆雷でダメージ、中破ですっ」


 小惑星帯に向かう輸送艦モドキを確認した後、隊長のUボートは撤退した。



 体当たりで魚雷を、”やまとん”から守った益荒男ますらお


「カミカゼアタック」

「サカイ殿、”大宇宙おおぞらのサムライ”の名は伊達ではないようですな」

 文福茶釜ぶんぷくちゃがまの初老の艦長が唸るように言った。

 

 元々、東和人は命を捨てることに対してとてもいさぎよい。 

 カミカゼアタックやトッコウと呼ばれる攻撃である。


「ええ、流石救国の英雄サカイ様ですっ、、”やまとん”をとは」

 近くにいた副官が言う。

「敵艦の予想位置、出ました」


「爆雷戦用意、倍返しにしてやれ」

「了解」

 大砲から爆雷砲弾が発射される。


「王女様より通信です」


「わらわは無事ジャ、このまま、小惑星内のサルベージに避難するつもりジャ」

 昔も避難した。

 その後、小惑星帯を抜けて反対側に出る予定である。

「小惑星帯の反対側で待機するがよい」

 サルベージのルートはランダムで変わる。

 どこに出るかはわからないのだ。


「了解しました、ご武運を」

 艦長が言った。


「はは、益荒男ますらおのジャが、魚雷の直撃を受けてもピンピンしておるノウ」


「……んん? 今なんと?」


「ジャから、サルベージに避難すると」


「いえっ、えーと、益荒男ますらおに乗っておられたのですかっ?」

 艦長が驚きながら聞く。


「そうジャよ、戦艦の大砲を耐えるとは嘘ではなかったノウ」

「じゃあ、通信を切るゾッ」


 副官は何とも言えない表情で艦長を見た。


「サ、サカイ殿おお、王女様と一緒に、”カミカゼ”はやめて下されええ」

 艦長が頭を抱えながら叫んだ。

 

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