ひろいぜっ

 大きな機体の前には、銀色のさつまいもと縦に描かれた直角三角形。

 芋洗坂いもあらいざかのエンブレムだ。


 ガコオオン


 益荒男ますらお本体の上部にある、搭乗用ハッチが大きく開いた。


「イチローは前席、ガンナーをお願い」

 振り向くと体にぴったりとしたパイロットスーツを着たマリアがいた。


芋洗坂いもあらいざかさんも傭兵マークスだったんですね」

 傭兵マークスは言わば操縦士(パイロット)ギルドのようなものだ。

 登録しておくと操縦士パイロットの仕事を斡旋してくれる。

 宇宙船の免許を取ると同時に登録するのが一般的だ。 


「ええ、ランクはCよ」

 操縦士パイロットとして一人前と言われるランクだ。

「ふふ、これに乗りたかったから」

 操縦士の資格を取ったのだ。

 うっとりした表情で 益荒男ますらおを撫でる。 


「行ってらっしゃいませ、マリアお嬢様」

 ――執事だ。筋肉ムキムキの。


「行ってくるわ、アーノルド」

「さ、乗り込んで」


「……」

 ガテン系の執事を横目に、益荒男ますらおの操縦席に入った。


 パイロットシートが前後に二つ。

 前席が後席より少し下がっている。

 支持アームで支えられており、アラウンドビューモニターだ。


「ひろっっ」

 下のモニターに布団を敷いて寝れそうだ。 


「ガンナーは前よ」

 ドライバーは後ろになる。


「分かった、芋洗坂いもあらいざかさん」

 前席に座る。

 マリアが後席に座った。

「マリアで良いわよ」


 メインスイッチオン。

「閉めるわよ」


 ガコオオン

 シートが下がり操縦席の真ん中に移動すると同時に、頭上の搭乗用ハッチが前からスライドして閉じる。

 非常灯だけのあかり

 目の前の四角いモニターに機体のチェック画面が映った。


 四角いボディーに四角い頭。

 ボディーの左右には三指を備えた大きな腕(アーム)。

 左腕に盾とパイルバンカー。

 腰の前と後ろにバーニアのついたアーマーが伸び、足という名の着陸装置。

 ボディーの後ろには大出力のバーニアが二つ。


 簡略化された図が赤色から緑に変わっていく。


「システムオールグリーン」

 マリアの声と同時に、アラウンドビューモニターが起動。

 周りの景色が360°映る。


 大型空母の格納庫内に設置されたコンペ会場だ。

 

 巨大な特設モニターが各会社の機体のCMを流している。 

 (モーターショウのようなものと思っていただきたい)


「……」

 少し離れた所でガチムキ執事が頭を下げていた。


益荒男ますらお、起動っっ」

 

 ゴゴゴゴ


 地の底から響いてくるような重低音。


 ゴッシュウウウ

 

 機体脇のスリットから白い煙を吐いた。


「沈めてちょうだい」


 モニター越しにガチムキ執事が親指を上げた。

 ウイイイン

 益荒男ますらおが乗っていた床ごと下にさがる。


「こちら、芋洗坂いもあらいざか所属、宇宙戦闘機S、F益荒男ますらお


「こちら、空母エンタープライズ、管制です」


「発進許可をお願いします」


「機体の試乗は明日の予定のはずですが」


「急遽、模擬試合が決まりました」

「練習飛行です」


「……確認しました」


 ガコオン


 益荒男ますらおを乗せたエレベーターが発進位置に着いた。

 大型機用の発進カタパルトである。

 前方の巨大なハッチが開く

 星々が見えた。


「ハッチ開放、発進準備完了、いつでも出れます」

 エンタープライズ管制だ。


「うふふ、出してちょうだい」

 カタパルト前の信号が赤から青に。


 ドオオン


 電磁カタパルトで、益荒男ますらおが打ち出された。


 コンペ会場のある大型宇宙空母、エンタープライズが後ろに見える。


「で、イチロー、武装はお願いよ」


「分かった」

 目の前にある四角いモニターをタッチする。

 搭載されている武装を表示させた。


 パイルバンカー。

 大型シールド。

 アセチレントーチ……?

 巨大建築物破砕用鉄球……?

 ドーザーブレード……?

 収納式クレーン……?

 収納式パワーショベル……?

 左右吸着式ワイヤー……?


「え~と、マリアさん」

「武装、特に射撃武器がひとつもないようですが……」


 マリアが気持ちよさそうに機体を飛ばしている。

「ふふふ~ん、そうよ~、今開発中だから~」 

 

 ――ただでさえ素早いミツルギの、”シルフィード”と近接武器?だけで戦えと。

 自分はおもわず頭を抱えた。


「大丈夫、大丈夫、益荒男ますらおを信じなさいって」


 マリアが楽しそうに言った。


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