でるぜっ

 レイカが、カラーのカタログを手に、上を見上げた。

 金髪縦巻きドウ・リー・ルが揺れる。

 視線の先にはカラー写真と同じものがそびえたっている。

 四角くて大きくて硬そう。


 益荒男ますらおだ。


 益荒男ますらおのカタログは、マリアから直接手渡された。


「むむ~、サクラギさん、ここを見てくださいまし」

 レイカがカタログスペックの数値を指差した。

 サクラギとサカイが覗き込む。


「装甲がとんでもないことになっていますノッ」

 レイカが深刻そうな声を出した。 


「ふふ~~ん、戦艦並よ~」

 マリアがその後ろでふんぞり返る。

 

「シルフィードのレーザーでは傷一つ、つきませんヮッ」

 レーザーはシールドブースターの先についている。


 シルフィードは小型軽量を売りにする、ミツルギの次期主力機だ。

 が、戦艦並みの装甲を相手にするのは火力不足。


「……ああ、知っている……」

 うつむいたサクラギの眼鏡がきらりと光る。

「だからこれを用意した」

 シルフィードの足元に細長いコンテナが運び込まれた。

 シルフィードの身長と同じくらいの長さだ。

 表面には、”Top,Secret”の文字。


 バシュウウ


 白い煙と共にネジ式のロックが外れる。

 と同時にシルフィードの左のシールドブースターが取り外された。


「こ、これは……!?」

 

 長い砲身。

 砲口の中にはライフリングが見える。

 外側にはエネルギーチューブが複雑に絡みあっていた。

 砲の後ろには、ドラム缶のようなエネルギーシュルが二発。


 色は黒。


「す、すてきっ、黒くて硬くて長いわっ」

「周りのチューブが今にもどくどくと脈打ちそうよっ」

 ――まるで怒張したピ――

 マリアが下品なことを大きな声で言う。


「ふっ、会社に隠れて開発した……」


「……”波動砲”……だっ」

 サクラギだ。


「何ですヮッ」

 レイカである。


「携帯用の、”波動砲”だっ」

 サクラギが答えた。


「何ですってえ」

 マリアだ。


「携 帯 用の、”波動砲”だっっ」

 サクラギが三度さけんだ。


「えっ、”波動砲”は惑星破壊用の戦略兵器じゃあ」

 たしか、宇宙超古代文明の遺産のはず。

「……でも……」

 サカイがつぶやく。


 ガッキイイイン


 波動砲装着完了っ。


「こんなのまともに飛ぶわけ無いのですヮアアアア」

 レイカが泣きそうな声で叫んだ。

 

 左腕の稼働アームに、”波動砲”をつけた、”シルフィード”はまるでシオマネキのように見える。

 装甲を可能な限り減らし、装甲と推力をシールドブースターで補った高速可変機。

 片一方のシールドブースターを外した時点で推力は半分以下である。

 

「大丈夫だっ、問題ないっ」

 サクラギの黒目の中で何かがぐるぐると回っていた。


 ガッキョオオオン


 シルフィードの腰の後ろに大きなロケットが二本付けられた。


「……地上から宇宙に打ち上げるために使われる、”大気圏離脱用ロケット”……ですヮ……」

 レイカが呆然と言った。

 横に、”H-2”と書かれている。

 それを縦に二本。


「あ~、何と言っていいかよくわからないが、がんばれ」

 サカイが、レイカの肩を軽くたたく。


「くっ、や、やるじゃないのっ、す、少し見直したわっ」

 マリアが悔しそうにサクラギに言った後、

「……欲しいわコレ(波動砲)……」

 ボソリと小声でつぶやいた。


 結果的に、シルフィードの変形機構は使用不可。

 大きさも、益荒男ますらおとあまり変わらなくなったのである。


「……こんなの、”シルフィード”というか、宇宙戦闘機ですらないのですヮ……」

 ふえた装備と重量のデータ。

 ”波動砲”の発射マニュアルを見ながらレイカが言った。


[芋洗い兵器部とミツルギインダストリーの試合の時間が近づいてきました~]

[準備をお願いしま~す]

 放送が聞こえてきた。


「行くのですヮッ」

 レイカが近くの机に、金髪縦巻きドウ・リー・ルを脱いで置いた。

 カツラだ。

 彼女は、貧乏侯爵令嬢。

 当然、髪は病気の母のために切って売っている。

 ショートカットの頭にヘルメットをかぶり、シルフィードの操縦席コックピットに乗った。


 本来の宇宙空母、”エンタープライズ”は、小型機は上に上がり小型機用のカタパルトから発進する。

 しかし、”携帯用波動砲”と、”大気圏離脱用ロケット”を縦に二つ積んだ、”シルフィードは、下の大型機用のカタパルトから発進することになる。

 隣では、益荒男ますらおも同じように下に下りていた。

 

 ゴゴン


 ”シルフィード”が完全に下に下りた。

 カタパルトの前のハッチが開いていく。

 宇宙が見えた。


「”シルフィード?”、発進準備完了しましたヮ」

 

 ゴゴゴゴゴ 


 大きなニ本のロケットに点火。

  

「了解、”シルフィード”、発進してください」


「”レイカ、シルフィード?”、出るのですヮッ」


 カタパルト脇の信号が赤から青に。


 ズドオオオン


 電磁カタパルトに射出されて、”シルフィード”が発進した。

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