うつすぜっ

「さ~~て、コンペも二日目になりましたあ」

「今日から機体の試乗も可能になりますう」 


 デデデデ~~ン

 

 ビル二階建て分の高さがある大型特設モニター。

 その前のステージ。

 その上で、アイドルの恰好をした若い娘が、マイク片手に言った。


 おおおおお

 

 巨大モニターの前に人だかりが出来ている。


「そして、な~~んと」

 少しためる。

 ピンクに染められたツインテールが揺れた。


「エキシビジョンマッチが行われるのですうう」


「他社の間での模擬戦闘は珍しいですねえ」

 少し離れた所に実況席。

 そこに座った中年の男性が言った。


「おおっと、解説のハカマダさん、確かに珍しいですね」

「では、企業と機体を紹介しましょう」

「宇宙戦闘機メーカーの老舗、ミツルギインダストリー、可変戦闘機、”シルフィード”おお」


 シュパアアア


 白いドライアイスと共に画面いっぱいに機体のPVが流れる。

 機体は青く染め上げられている。

 軽快なBGMと共に、宇宙空間の奥から飛行形態で近づいてくる。

 逆噴射と共に近接形態(人型)に変形。

 画面外に飛び去った。


「かっこいい~~」

 イチローが思わず叫んだ。

 ――んん

 という感じでマリアがイチローに振り向く。


「これは、元となった機体、”ゼファー”を発展進化させたものですねえ」

「”ゼファー”と言うと宇宙軍の正式採用機ですね」

「そうです」


「さあ~~て、対するはあ」


 ドドオオン


 画面に大きく、毛筆で書かれた、”益荒男ますらお”の文字。


 燃えるお◯~~このお♪

 赤いトラク◯ア~~♪

 そ◯がお前~だぜ~♪

 い◯も一緒だぜ~♪

 

「これは芋洗い坂のイメージソングですね」

 解説のハカマダが冷静に言う。


 モニター一面に四角く大きな金属のかたまり。

 黄色にところどころに虎じま。

 プシュウウ

 わき腹から白い煙を吐いた。

 

 ズドバアン


 腕に装備された巨大杭打機パイルバンカーの発射シーンが、パッパッパッと、前、斜め後ろ、左右の三方向視点で流れる。

 地上だ。

 背後と前方に土煙が渦巻くように上がった。

 ズズッ

 巨体が発射の反動で少し下がる。


「これはありかも……ですヮ」

 金髪縦巻きドウ・リー・ル、レイカだ。

 ――ああん

 サクラギに睨まれた。


「こ、これはすごいですねえ、ハカマダさん」

「そうですね、オニダワラくん」

 オニダワラと呼ばれたピンクのツインテールのアイドルが頷く。

「もともと、芋洗坂は建築会社の大手ですよね」

「自社で重機や農耕機械を開発していたんです」

「いやあ~、宇宙戦闘機を開発しているとは聞いていましたが、すごいのが来ましたねえ」


「ええ、でも性能的には侮れないものがありますよ」

「軽量高速化の流れには、真っ向から逆らっていますが……」

「五層の複合装甲チョパムアーマーはすごいっ」


「え~と、どれくらいですか」


「ふむ、宇宙戦艦の装甲に匹敵しますね」


「そ、そうなんですか……」

 アイドルが若干引き気味だ。

「芋洗い坂総合土建会社、兵器部、”益荒男ますらおでしたあ」



「では、操縦するパイロットを紹介しましょう」

「ミツルギインダストリーの、”シルフィード”にはあ」


 レイカが、金髪縦巻きロールを揺らしながらステージに上がる。


「レイカ・バレイショ―さんで~す」


「お~ほっほっほっ」

 扇子で口元をかくしながら高笑い。


「何と彼女は、傭兵(マークスランク)、”A”で~す」


「以後お見しりおきを」

 きれいなカーテシーをしながら言った。


「対する、芋洗坂総合土建会社は~」

「おや、お二人ですか? ハカマダさん」

「ええ、複座なんですよ」

 

「芋洗坂マリアさん、サカイイチローさんですう」

 二人がステージに上がった。

 マリアのパイロットスーツの胸には、サツマイモと直角三角形マーク。

 胸の膨らみで丸く歪んでいた。


「どうもどうも」

 ぺこぺことイチローが頭を下げる。


「マリアさんは、芋洗い坂の御令嬢ですよね」


「そうよっ、益荒男ますらおは私が作ったのよっ」

 ――フッフ~~ン 

 胸を張った。

 大きく揺れる。


「え~と、マリアさんのランクは、”C”、サカイさんは、”D”ですね」

「? ふ~む、サカイ・イチロー? いや、”D”ランクはあり得ないかなあ」

 ぺこぺこしているイチローを見ながらハカマダがつぶやく。


「どうしました、ハカマダさん」


「いや、人違いだろう」

「まさかこんなところに、ガゼフ王国ウルトラエースがいるわけないよね」

「何でもないよ」


「そうですか」

「ではっ、各パイロットは機体の発進準備をして下さいっ」



 マリアとイチロー、レイカとサクラギが展示ブースに向かう。

 隣り合っているので同じ方向だ。


「あんな、宇宙戦闘機とも思えないようなものに負けないからなあっ」

 サクラギが、並んで歩くマリアに大声で言った。


「あらあら、益荒男ますらおに傷一つでもつけられてえ」

 何せ、装甲は戦艦並。


「くうう、ほえづらかくなよお」

 サクラギが地団駄を踏んだ。


「よろしくお願いします」

 イチローがレイカに礼儀正しく頭を下げる。


「まあっ、ていねいな方ですヮ」

「こちらこそよろしくお願いします、ですヮ」

 レイカがイチローを見ながら、まなじりを下げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る