つくるぜっ

 ヂヂヂ、ヂーヂー

 ヂヂヂヂヂー


 少し高い機械音が響く。


「ふむ」

 サクラギは、作業チャンバー室のガラス窓から中を覗き込んだ。

 ナノマシン技術を使用した大型の超高性能3Dプリンターである。

 軍用の万能ナノマテリアルを使用した、機械の指がプリントアウトされていた。


「これが益荒男ますらおの新しい指なのね……シューちゃん」

 マリアが言った。


 碧眼に黒縁眼鏡。

 金髪は丸く頭の上にまとめられている。

 白衣に紺色のタイトスカート。


 3DプリンターにつなげられたPCを、前かがみになりながら見た。


 ユサリ


 白衣の下の白いブラウスが柔らかそうに揺れる。

 

 PCの前にはサクラギが座っていた。

「マ、マリアさん……」

 ――左腕に柔らかい感触が

「コ、コホン、これで普通の重火器が使用できるようになる」

 宇宙戦闘機用の銃火器は規格大きさが統一されているのだ。


「さらに……」

 サクラギがPCに益荒男ますらおの腕のCGを表示させる。

「フレームと装甲を別にしたよ」


「へええ」

 肩や腕、二の腕に丸みを帯びた装甲がつけられている。

 これは、曲面で質量実体弾は弾くことを期待したものだ。


 ”七十四式中戦車”と同じように、である。


 対ビーム用のコーティングもされる予定だ。

「うふふ、腕が出来たら銃の射撃試験場に行きましょう」

「わかった」

 サクラギが答えた。



 ”芋洗い坂”が所有する一惑星。

 乾いた土に乾燥に強そうな草がまばらに生えている。

 遠くの方に岩山が連なる。

 イメージ的にアリゾナの砂漠と言った所か。


 その一角に、益荒男ますらおの母艦である、”宇宙戦艦やまとん”が着陸していた。

 射撃試験場だ。

 新しい腕のついた益荒男ますらおが下ろされている。

 その周りをスタッフが射撃試験の準備をしていた

 

「暑いのですヮ」

 パイロットスーツのツナギの上着部分を腰に巻いたレイカが言った。

 少し小さめの深緑色のTシャツ。

 白くて健康的な脇や脇腹がちらりと見える。

 金髪縦巻きドゥー・リー・ル。

 破れたのをつくろった跡のある日傘をさしていた。


益荒男ますらおの中でクーラーでもかけていますか?」

 冷たい飲み物をレイカに渡しながらサカイが言った。

 レイカの白い肌に少し顔を赤くしている。


「……そうですヮネ」

「あ、飲み物をありがとうですノ」


 益荒男ますらおの頭の前。

 コックピットハッチが前にスライドしている。

 複座の座席が出ていた。

 前席にレイカが座る。

 金髪縦巻きドゥー・リー・ルのカツラを脱いでショートカットになった。


「沈めるよ」

 ピッ

 後席に座ったサカイが、スイッチを押しシートを下に下げた。


 ウイイイン


 コックピットハッチが締まると同じに、白い照明が操縦席につく。


 シュウウウ


 すぐにクーラーが効いて涼しくなった。


 しばらくすると、


 ピピピ


 と無線が鳴った。


「二人とも乗っているのね?」

 マリアの声だ。


「はいですヮ」


「ちょうど準備が終わったわ、そのまま射撃試験に入ってちょうだい」


「了解」

 サカイが答える。

 サカイが、メインスイッチを押した。

 

 パッ


 360度アラウンドモニターが機体の周りを映し出す。

 複座のシートはフレキシブルアームに支えられていた。

 益荒男ますらおの足元に、オープントップの四駆に乗ったマリアとサクラギが見える。


益荒男ますらお起動」

 次はスタータースイッチだ。


 ドロオウン

 ドロッ、ドロッ、ドロッ


 重低音を響かせて益荒男ますらおが目を覚ました。


「じゃあ、”メドヴェーチ《熊》・ウビーチ《殺し》”対艦対物ライフルを持ってちょうだい」


 ”メドヴェーチ《熊》・ウビーチ《殺し》”対艦対物ライフル。

 これは遥かな昔、太陽が赤色巨星化し地球を飲み込む前。

 ロシアの、”トカレフ王家”が好んで使った対物ライフルを大型化したものである。

 今ある銃の中で一番大きなものだ。


「はいですヮ」

 レイカが益荒男ますらおに銃を持たせる。

 長くて大きな銃だ。

 巨大な益荒男ますらおが持つとちょうどいい感じである。


「じゃあ、弾を込めて(リローディングして)ちょうだい」


「はいですノ」


 ガチャリ


 益荒男ますらおの手がライフルのコッキングレバーを後に下げる。

 手が台車に置かれた大きな弾丸を取った。


 ガチャガキン


 弾丸を薬室に入れレバーを前に。

 このライフルは単発式である。

 一発ごとに弾をこめるのだ。


「機体を固定するよ」

 サカイだ。

 今回は、キャタピラーではなくトラクターのタイヤをつけている。

 パイルバンクしたときと同じように機体固定用のアームを地面に出した。

 タイヤが少し浮く。


「的は、20キロ先よ」


「狙い撃ちますヮッ」


 バッカアアアン


「命中ですノ」

 

 的のほぼ真ん中に弾が当たった

 ――いい腕だ

 サカイが感心した。


 ガチャリ、ピーン


 レバーを後退し空薬莢を排莢。

 次弾を装填。

 発射。


 バッカアアアン


「左上にそれましたノ」

銃身バレルの冷却が追いついていないのですヮ」 


「……レイカの勘と経験で合わせてみて」


「了解ですノ」


 しばらく撃ち続けた。

 このようにして、火器管制用の学習型コンピューターに経験をつませていくのである。


「じゃあ、次はジャイアントバズよ」


 マリアは、大きいことはいいことだ派。

 サクラギは、大鑑巨砲主義者。

 大きな武器をたくさん試験した。

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