第31話事件の黒幕が魔族と言うのだが?

スライム美少女、いや、女神との不思議な話をした空間から現実世界へ帰還した。


白鷲教の三騎士との決着は既についていた。


あれほどこちらを見下していたヤツらは、立ち上がれそうにない。


怪我はそれほどではない筈だ。俺はスライムに手加減をするよう命じていた。色々聞き出したいことがあるからな。


「え……ええ!?」


レオンが素っ頓狂な声をあげる。


「も、もう倒しちゃったんですか? こんな一瞬で? それに、スライムが女の子に……」


「ははは……そうだな。どうやら、雑魚のようだったようだ。あと、おれの召喚獣が進化して人になったらしい」 


「いや、白鷲教の三騎士って、王宮騎士団ですら、脅威に感じるとか聞いたような……それに魔物が女の子になったって……いや、アル様にそんな常識は通じないのか……」


「何をぶつぶつ言っているんだ? 所詮新興宗教の用心棒だ。せいぜいCクラス冒険者位の実力なんじゃないかな、たぶん」


「「「いやいやいやいや、そんな訳ないでしょう!!」」」


総員から突っ込まれた。


いや、それより。


「……おい、最後のお前、用心棒は倒したぞ。お縄についてもらって、全部吐いてもらうぞ」


「ふふっ、たかが人間の騎士風情と私を一緒にするな。だが、お前の顔は覚えておくぞ」

おかしい。この男は隠ぺいのスキルを使っていた。ハズレスキルなものの、暗殺やこそこそ探りを入れる間者としては有能だ。だが、戦闘には適さない。


にもかかわらず、この自信。


俺はこの男を先程もらったスキル【鑑定】で見た。


【種族】魔族


【職業】??????


【スキル】??????


「―――――!!!!」


魔族! ここ300年間姿を現すことのなかった魔族。


俺はようやく魔物が突然召喚された理由が腑に落ちた。


例え、神級召喚魔法の使い手でも、魔物を数百匹も召喚するなんてできない。


災害級の魔物だって無理だ。


白鷲教には魔族が関係している。そう考えると、全ての符号が一致した。


しかし、今考えるべきは、この魔族との戦い。


「ふふっ、私の正体に気が付いたか? だが、安心しろ。まだその時ではない。今日の処はひとまず引き上げるか。命拾いしたな。私にはやるべきことがまだあってな」


そう言うと、男の周りに魔法陣が現れて……消えて行った。


「て、転移の魔法? 馬鹿な! そんなモノ、100年一度現れるかどうかのスキルだぞ!」


仲間の白鷲教三騎士の一人が声を荒らげる。


どうやら、この騎士達も全てを知っている訳ではなさそうだ。


何か水面下で動いている。魔族、魔王に関することが。そのキーがこいつら白鷲教――か。


ありえない話ではない。


「……まあ、逃げたヤツより」


俺は白鷲教の三騎士という名ばかりの雑魚に向け、できるだけ凄んだ声で聞いた。


「お前ら白鷲教が不穏な動きをしていることは間違いないな。痛い目に遭いたくなくば――全部話してもらおうか!」


「く、くっ殺せ……!」


「無念……!」


「ちっ!!」


三騎士達の顔色が青ざめる。そして、彼らは知っていることを全て話した。もっとも、彼らも全てを知っている訳ではなかった。所詮、雑魚だ。


三騎士達はさっき逃げた魔族の男を護衛しているだけだった。だが、信じられない事実が明るみに出た。


やはり召喚魔法での魔物の大量発生だった。そして、召喚者は例の魔族。


そして。


召喚の贄には白鷲教の唯一神、【ヘル】への信心が必要だと言うのだ。


その時、今まで押し黙っていた、あの感じの悪い冒険者ダニエルが息せき切ったように話し始めた。


「アル様、大変申し訳ございませんでした。俺はとんでもないことを! でも、俺はアル様に惚れこみました。どうか俺を子分にしてください。俺はあなたのようになりたい。だから、お願いします」


ダニエルはこれまでの姿勢を180度変えて、俺に対して90度腰を折って、頭を下げた。


俺は思案した。先日の名前を聞き忘れた男もそうだが、これから俺はこの辺境領の養子、ひいては領主になる。家臣は欲しい。共に剣を振るった戦友はかけがえのない人材となる。


だから。


「いいだろう。子分として認める。共に剣を振るった仲間だ。是非頼む」


俺はダニエルを将来の臣下の候補とした。もちろん、レオンやクラウス達も候補だ。


領地経営には人材が必要不可欠なのだ。


「アル様! 見事な功績です!?」


「まさか本当に白鷲教の一味が魔物の大量発生に関係していたとは」


レオン達が口々に俺を賞賛するが、俺は一人、焦っていた。


レオン達にあの男が魔族だと伝えるべきか? いや、これはあまりに重要過ぎる情報だ。


魔族の300年ぶりの襲来。国家機密レベル。容易に一般人に知られていい筈がない。


クリスと養父となるイエスタにまず話そう。


「レオン、クラウス。……すまないが、冒険者達をここに呼んで、このダンジョンをくまなく調査して欲しい。それと、あの三騎士を拘束して、情報を引き出してくれ」


「わかった」


「はい。私はすぐに仲間を呼んできます」


アジトの数時間後制圧された。三騎士の他にも白鷲教の信徒は隠れていたが、大した情報は得られなかった。


めぼしい調査をあらかた終了して、俺達はいったん引き上げることになった。詳細な調査は後日、ギルドだけでなく、領の騎士団が行う。当面、このアジトは領の騎士団の管理下に置くことになった。


俺達はディセルドルフの街へ帰還したが、そこには意外な人物が待っていた。


が、その前に。


「で、その子は何なの? アル?」


「いや、だからスライムが進化して女の子になったみたいで、その」


俺は帰り道、クリスから散々スライムのことを詮索された。


「だから、スライムはさっき進化したばかりで、俺もよくわからん」


「そんな……アル様、私達あんなに激しく愛し合っ―――」


「な、―何!?」


俺は恐る恐るクリスを見た。クリスは目に赤い光をたたずませ。


「やっぱりかぁ! 浮気ね――浮気なのねぇ!!」


「アル様、酷いです。リーゼというものがありながら――」


俺はクリスとリーゼを見た。二人とも、目に狂気の赤い光を灯し。


「この! 浮気者――行ってこい! 大霊界!!」


クリスのグーのパンチで吹き飛ばされた俺は、クルクルと大の字のまま飛んで、落ちた。


「ク、クリス、違うんだ!」


俺は必死に無実を訴えた。落ちた処に出来た穴を這い上がると、リーゼがいた。


しかし、目が爛々と赤く光り……怖いよお!


「アル様、リーゼは信じてます。アル様のこと……」


天使か!


「リ、リーゼ、ありがとう。信じて……くれ……て」


最後まで言えなかった。リーゼの目は逝っていた。


「信じてます。二度と浮気しないって! 「爆裂エクスプロージョン!」


リーゼに爆裂の呪文で吹っ飛ばされた。

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