第61話俺氏ようやく駄女神から真実を聞いたのだが?

いや、微妙な空気が漂う。


「エリスは別にいいんですよ?」


「バッカ!? お前何言ってんの?」


「馬鹿はアル君です! キスはしてくれたじゃないですか!!」


忘れてた。さっき、ノリでしちゃった。かなり濃厚なヤツ。


「あれはツイのりで、そんなに意味は……」


駄女神は泣いていた。


「駄女神?」


「アル君の馬――――――――鹿!!」


駄女神が妙に可愛いというか殊勝だ。


「いや、俺はまだ16歳なんだ。そういう事はまだ早い。誰が一番好きかと言うと、クリスだ。迷ったけど、深く考えたら、そう思った。でも、俺は貴族なんだ。好きな人とは結ばれない」


「300年前もそんなことを言っていたわね。変わらないわね。アル君は」


「駄女神の希望は叶えたろう? そろそろ話してくれないか? 300年前のことを?」


「わかったわ。キスしてくれたし――」


初めて会った時お漏らしするとか、とんでもない変態だから更に厳しい要求があるかと思ったら、意外と可愛らしい一面もあるようだ。


「300年前にね、この世界の外から邪神ヘルがやって来たの。ヘルは魔王と魔族を作り、人を皆殺しにしようとしたの。それを食い止めたのが、アルの前世――――英雄エルファシル」


「お、俺がエルファシル?」


驚いた。自分でも俺、頑張ってるな、とは思っていたが、そんな凄い人が前世とか。


「そうよ。300年前、ちょうどいい機会だから、人間を翻弄しようと思って、ハズレスキル【底辺召喚士】の才能魔法を一人の男の子に送ったの」


「それが?」


「そう、それが前世のあなた、英雄エルファシルよ」


英雄エルファシル、勇者の称号を唯一戴き、王国の初代国王となった者。


「私はエルファシルを翻弄するつもりだった。ハズレスキルと見せかけて、本当は最強のスキル。スキルを覚醒するためには肉体、精神、学問、様々な努力が必要。


そして、エルファシルは努力し、ハズレスキルを覚醒させた」


「そこは俺と同じだな?」


「ええ、そうよ」


俺は魔法の成績は悪かったが、実技が悪いからで、座学は必死に頑張って、多分理論だけなら学園一だったと思う、他の学業だって、肉体も徹底的に虐めて恵まれた筋肉も手に入れた。


「私はね。そんなエルファシルがハズレスキルの覚醒と共に『ヒャッハー!?』と浮かれて、散々やりたい放題になると思ったのよ。ていうか、それを見たくて、このスキルを作ったの。あなたのスキルはいくらでも増やせるし、威力が10倍なのよ、普通、世界征服しようとか思うでしょ」


クソだな。この女神。


「でもね。エルファシルは違った。仲間思いで、スキルなんて関係なく、成長して。


そして、魔族が襲来した。たちまち人の国は滅んだわ。でも、エルファシルは仲間と共に、魔族を押し返し、遂には魔王に止めを刺した、かに見えた」


「エルファシルが魔王を倒したんじゃないのか?」


駄女神はかぶりを振って。


「魔王とエルファシルの力は拮抗していた。あのままでは勝負はつかない。いや、もしかしたら、エルファシル達が勝ったかもしれない。魔族事態はエルファシルの仲間だけで倒せる。でもね。魔王の力とエルファシルは互角、いや、魔王の方が少し上だったの」


俺は思いがけずも駄女神の美しさに魅了された。駄女神は涙を流していたから。


「邪心ヘルはスライム、エルファシルの使い魔だった私の正体に気が付いて、私に提案をして来たの。それは」


「一体なんだったんだ?」


英雄エルファシルと魔王討伐の話は神話として残っている。半分以上がせと思っていたが、半分は300年前に実際に起きたことで事実だ。各地にその名残が残っている。


しかし、今女神が話すことは聞いたことがない。


「ヘルは聖剣に力を貸してやろうと。魔王を倒す力と魔王、魔族を封じる力を貸してやろう。その代わりに――――」


「一体何を要求して来たんだ?」


邪神は邪な要求をしてきたに違いない。だが、どんな要求だ?


もしかしたら、この女神が変態になってしまったことと関係が?


「ヘルはエルファシルとその仲間の血族、つまり、子孫に強いスキル、才能魔法を受け継ぐようにしろと言ってきたわ。私はそれを受け入れた。あのままだと、エルファシルが死んじゃう。たとえ、魔王が討伐されても、エルファシルは死んじゃうの。それはわかったの、だから」


この駄女神、変態で、駄目だけど、エルファシルのことを――――


「エルファシルのことを好きだったんだな。誰にもお前を責める権利はない。俺もクリスやリーゼのためなら、邪神に翻弄されるかもしれない」


「あ、ありがとう。あなたから、そういってもらえると」


俺は女神の頭に手をのせた。なでるように愛おしいかのように。


多分、女神はそうして欲しかったんじゃないかと思えた。


女神は俺の手を取ると。


「エルファシル、いえ、アル君は優しいのね。あの頃と変わらず。さすが私を誑し込んだ男」


誑し込むとか人聞きが悪いのだが。


「いや、お前と前世の俺が恋仲になっていたとしても、誑し込んだと言われるのは、やや抵抗をうけるのだが」


「何言ってるの? あなた、今だって、何人誑し込んでいるの? みんな本気であなたのこと好きなのよ? 私だって、化身のライムだって」


そう言われてみると、俺、随分好かれてるな? でも、俺、貴族だから正妻は自分で決められない。好き嫌いでは結婚できないのだ。


仮に平民で、みな平民なら、クリスを選ぶだろう。俺はみんな大好きだ。


男って、複数の女の子を好きになれる生き物だと思う。


でも、結婚するのは、そのうち一人だけ。


だから、一人を選ばなければならない。


もちろん、一人選んで他の子とは遊びだなんて、絶対ダメだ。


その子の心のダメージを考えたら。その子が本当に好きなら手は出せない。


「あなたはそういう誠実なところが好かれるのよ。男の人も女の子も、それが最高の誑しのテクニックなのよ。前世でもたくさんの女の子が」


「人をジゴロみたいに言わんでくれ。俺はそんな自覚はないぞ」


女神はふふふと笑うと。


「自覚がないからこそ、女神の私も落ちたのね。それまで人を救おうだなんて思わなかった。でも、エルファシルに会って、変わった。だから――――


邪神ヘルの提案に乗って、スキルの件を聞き入れ、聖剣、つまり、スライムだった私に邪神の力を取り込んで、無事魔王を倒し、その力を封じたわ」


俺はポカンとしてしまった。


それは、つまり。


「お前は剣となって、一度死んだのか?」


「そうよ。だから私の力は弱くなったし、人界に顕現できないの」


俺は驚いた。このクソ女神が自身を犠牲にして、恋人のエルファシルの命を救ったとしか思えなかったからだ。


「駄女神だなんて言ってすまん」


「いいのよ。前世のエルファシルにも散々言われたから。むしろ嬉しい、懐かしい」


しばらく沈黙が続いたが、女神の方から切り出した。


「魔王との戦いはまだ、始まったばかりよ。私は邪神ヘルの甘言に騙された。結局、封印はエルファシルの子孫によって解かれてしまった。もう、アル君が魔族との戦いに勝利するしかないの。邪心ヘルの力に頼らずに」


「わかった。じゃあ、俺は戦いに赴こうか」


「ええ、必ず勝ってね」


そう言うと、周りの視界が歪んで、魔族と対峙していた。


結局、女神の変態は元々という残念なことがわかったのだが。

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