第14話なんか強い魔物が出過ぎるのだが?
クリスとリーゼのグーでの殴りあいがひとしお終わると何故か友情が芽生えた。
「あなた、なかなかやるわね。私に喧嘩で対等な女は初めて会うわ」
「あなたこそ、貴族の癖にやるわね。いいわ、あなたをライバルと認めてあげる」
リーゼ、貴族に向かって対等にライバルとして認めるって、世間一般的にどうなのだ?
それにクリスも子供の頃お転婆だったけど、別にヤンキーではなかった筈なのに。
クリスはもう、発言がほぼヤンキーなんだが。
二人が仲直りというより一時休戦になったようなので、落ち着くと、クリスが意外なことを発見した。
「待って! この子、まだ生きているわよ! 急いで治療すれば、命に別状はないわよ」
「本当か? それはラッキーだ。俺はてっきり!」
なんとゲリンに殺されてしまったと思っていた亜人の奴隷の女の子達は辛うじて息があった。
クリスの光魔法で治癒してもらい、二人とも息を吹き返した。
もちろんゲリンは放置だ。死なない程度に痛めつけたが、死にはしないだろう。
念のために確認しておいたが、ゴキブリみたいにピクピクと動いていた。
こうして、俺達は馬車の旅を再開した。
奴隷の女の子達は騎士の馬に乗せてもらうことになったが、ここは男の俺が馬に便乗させてもらって、女の子のどちらかは体力を削られない馬車で移動すべきだと思うのだが。
「「アルはダメ」」
クリスとリーゼから却下された。クリスは俺のご主人様だからわかるけど、なんでリーゼが俺に命令してるのだ? 一応、俺の方がご主人様なんだが。
馬車の中で俺は真ん中に座らされて、両脇にクリスとリーゼが双方から俺を引っ張りあって来る。二人共、胸を明らかに故意に押し付けるの止めい。
クリスとリーゼは身の上話を始めた。
リーゼはクリスに生い立ちや俺の領地に来て、俺の世話係になったこと、ベルナドッテ家を出奔して奴隷狩りに会い、先程みたいなことになったことを教えてくれた。
クリスも婚約破棄されたことや俺との思い出なんかをリーゼに話してくれたが、俺にとっても重要に思える情報が語られた。
「魔法学園で貴重な才能魔法を授かった平民出身の女の子が、とある侯爵令嬢に虐められていて、それを私が止めようとしたの。殿下の婚約者だった私は未来の王族たる者に相応しい行動としてそうしたの。しかし、殿下は平民ごときのために王族の権威をかさに着るとは何事だと激高されてしまい……それが直接の原因だけど、それまで殿下に進言をいつも申し上げていた私を鬱陶しいと思われて、婚約破棄されて、私を捨てて、新しい婚約者を探しているの」
ふっ、クリスは嘆息するが、彼女の体が強張ったのを俺は見逃さなかった。
「悔しかったわ。殿下の考えはおかしいし、最後に言われたのが、治癒しかできない光魔法のスキルしか持たないお前に用は無いですって……ほんと、魔法、いえ攻撃魔法が全てなのね」
悔しかったのだろう、まっとうな意見が潰され、おかしな意見がまかり通る。
それに神級魔法でも攻撃魔法でなければ価値がないなんて……つい今しがた、クリスは二人の女の子の命を救った。治癒魔法は素晴らしい魔法だ、それを。
既に殿下に意見する者などいない。唯一の存在を殿下は切り捨てたのだ。
明らかにおかしいのは殿下の方だ。それなのに誰もそれに気が付かず、むしろクリスが謀反を企ているなど。
クリスの家は元々王族と繋がりの深い名家。謀反など起こして一体なんの得がある?
ちょっと考えれば分かる話だ。それを俺の兄貴をはじめ、誰も疑問に思わない。
殿下を妄信して、考えようともしない。この国は亡国への道を歩み始めているのではないか?
国は魔法だけで成り立つものじゃない。領地経営で民をまとめることの難しさを知っている俺にはそう思えた。
「でも、私には心強い味方がいるの、安心して、決して孤立している訳じゃないの」
「誰なんだ? 殿下に意見や対等に話せる人なんて思い浮かばないのだが?」
俺は疑問に思った、兄貴のエリアスやその友人ゲリンの悪逆ぷりから上級貴族の大半は殿下の方に心が傾いているだろう。そんな状況で殿下に意見できる人間なんているのか? 国王は3年程前から病に臥せっている。女王様は流行り病で既に逝去されている。ならば、誰だ?
「アンネリーゼ殿下よ」
そうか、第一王女!
「アンネリーゼ殿下はカール殿下の姉、それなら意見できるな!」
「そうよ。これ以上、平民や亜人達を苦しめることにアンネリーゼ殿下は心痛めてるの」
俺は安心した。それとクリスのトラウマを一つ解消させてあげられそうだ。
「安心したよ。この国にも未だ良心のある人がいるのだな。王女殿下なら心強い。それに、クリス……失礼かもしれんが、君の魔法は攻撃魔法でも威力を発揮できるんだが」
クリスは驚いたような顔をした。当然だろう、光魔法は治癒に特化した魔法。
それが常識だ。だが、俺はゲリンを倒した時に魔法解析という謎のスキルを手に入れた。
それで、魔法というものの正体に気が付いてしまったのだ。
才能魔法を持つものは、その呪文の意味すら知らず魔法を発動できる。
魔法は言葉で想いを体現するもののようだ。そして、言霊を紡ぐと術者の周りに魔法陣が現れる。だが、その魔法陣の意味はわからない。太古のルーン文字で書かれている文章の意味は誰にもわからないのだ。おそらく俺以外には。そう、魔法解析のスキルは魔法陣のルーン文字の意味を俺にお教えてくれたのだ。
「クリス、君の魔法の魔法陣をさっき解読させてもらったよ。君は汎用魔法の要領で、光魔法の魔力を魔力弾として打ち出すことができたよね?」
「う、うん。殿下に治癒魔法をバカにされて……殿下は魔物討伐で怪我をされたことがなくて、それで攻撃は最大の防御、治癒魔法なんていらないって言われて、悔しくて編み出したのが、あの方法なの。市井の冒険者なんかがやっているのを聞いて学んだの」
なる程と思った。流石、俺の幼馴染。少し嬉しくなった。俺の兄貴なんかは生まれ持った才能だけで魔法を発動していた。少しでも工夫をすれば、元々強力な魔法だ。更に強力になるだろう。
だが、圧倒的な力を手にして、努力、向上心というモノを失っていた。
だが、クリスは向上心を失っていなかった。ならば、即席で簡単に光魔法を兄貴並の攻撃魔法に変えることは可能だ。
俺の魔法解析の力があれば、簡単にできる。
これまで、魔法詠唱のスペルを変えると言う人間はいなかった。何故なら大抵、魔法自体が発動しなくなったり、暴走したり、威力が極端に少なくなってしまうから。
だが、魔法陣の意味を知ることができた俺は呪文を少し改良して、想うイメージを改良するだけで、魔法自体を色々応用したり、進化できることに気がついた。
「クリス、呪文のここを変えて、呪文を唱える時、明確なイメージを持って。君の魔法は光の神に力を貸してもらう魔法だ。だから、神様をイメージして、唯の魔力じゃなくて、光のエネルギーを貸してもらうよう念じるんだ。そうすれば、君の魔法は攻撃魔法に変わる」
「ほ、本当? そんなの聞いたことないわ。いや、アルが言うんなら、あり得るかしら」
俺は、クリスににっこり、笑って笑みを返すと。
「ところで、クリスさんて、まさか貴族なの? さっきから聞いたら、もしかして貴族? て思ってたんだけど?」
ザザザザザザザザっザザザ〜ン
俺とクリスがずっこけた音だ。まさかリーゼがこんなに天然とは知らなかった。
だが、そこに突っ込みを入れるより早く、思わぬ知らせが入った。
「災害級の魔物が出たぞ!?」
災害級? なんか強い魔物が出過ぎるのだが?
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