第26話強い魔物を何の前触れもなく出現させる犯人がわかりそうだが?

「どういうことだ……?」


そんな筈はない。おかしい。


さっきまでこんな気配はなかった。


考えられることがあるとすれば、突然魔物が発生したということだが――そんな馬鹿なことがあるのだろうか?


俺の脳裏には街道で突然発生したホワイトハングやキングタイガーが浮かんだ。

魔物は魔の森のダンジョンから生まれる。

いや。


待てよ。


ダンジョンからではなく、突然発生したと考える方が自然なんではないか?

最初感じたのは人、そして異質な何か、そして次は魔物の気配。


「クリス、リーゼ、どうやら、こんなところで、結構強力な魔物に遭遇するようだ」


「ええっ!? こんなところでですか? アル様」


「嘘でしょ!」


あの異質な何かの正体は不明だが――これは逃すわけにはいかない。


だが、まずは魔物を倒さないとな、明らかにこちらに向かっている。


「クリス、リーゼ、わかるかもしれない。いままで突然発生した魔物たちの謎がな」


王都からディセルドルフの街までに至る間に、大量のホワイトハング、それに災害級の魔物キングタイガーに遭遇した。


これはあり得ない、街道は魔の森から遠く離れている。冒険者や騎士団に遭遇せず出てこれるわけがない。あり得ないのだ。ならば、誰かが召喚したのではないか?

そして、現れたのはヤークトパンサーだった。黒豹の魔物だ。


「何なの?……この数?」


現れた魔物の大群に思わずクリスがため息を吐く。


大量のヤクートパンサー。


俺の想像は確信へと変わって言った。ここは街から2時間の距離だ。それも魔の森とは逆方向の比較的安全なエリア。薬草採集は新米冒険者の仕事だ。当然、比較的安全な場所のクエストしか出ない。


それがこの数だ。街を横断する以外にここへ辿り着ける訳がない。もちろん、いくらこの数と言っても、街の冒険者や騎士団、それにイェスタさんならすぐに討伐できるだろう。


故に。


この魔物は突然この場所に召喚されたのだ。何者かによって。


ヤクートパンサーに数、およそ100?……いや、もっといるようだが。


「ヤバいわね……!」


「こんなにいっぱい……!」


クリスとリーゼの顔が曇る。1匹だけならどうと言うことはない。


だが、100匹を超える魔物。俺もじっとり汗ばむ。


クリスとリーゼに前衛は無理だ。騎士団がいれば、踏みとどまっている間に神級攻撃魔法をぶっ放せばいいだけだ。だが。


「俺が剣で前衛にでる。リーゼは爆裂の魔法をぶっ放し続けて、クリス……ぶっつけ本番で光の攻撃魔法な!」


「ちょ、ちょっと、本気なの? 一度も試したことないわよ?」


「大丈夫だ。スペルは教えたろ。その通りに詠唱すれば間違いない」


「クリスさん。アル様を信じて! 私の魔法だって、あんなに進化したんだよ」


「わかった。アルを信じる」


皆、決死の覚悟を決める。だが、そこに怯えはない。


クリスから魔力の高まりを感じる。詠唱前の魔力操作。より魔法の威力を高めるため、クリスはできるだけ多くの魔素を体内に取り込み、魔素を練り、質を高める。


俺は俺の仕事をしないとな。


無銘の剣を抜き放つと、ヤクートパンサーの群れに突っ込む。


2、3匹ヤクートパンサーを即座に滅ぼすが、こんなペースじゃとても抑えきれない。


「アル様、避けてぇ!?」


「へぇ!?」


嘘だろ? まさか?


そのまさかだった。


「爆裂エクスプロージョン!」


「え? まさかマジなの?」


リーゼを俺を助けるつもりで、俺の近くに爆裂の魔法の光球を放った。


そして、激しい爆発とともに数十匹のヤクートパンサーを吹き飛ばした。俺と共に。


俺は吹き飛ばされて、空高く大の字でクルクル回りながら、飛んだ。


兄貴やあのリーゼを襲ったゲリンの気持ちが少しわかった。ムカつく。


ドコンと大きな音と共に、俺は運よくクリス達の近くに落下した。


そして穴にめり込んだ。急いで、自力で這い上がると、その時、ちょうど。


「光あれ、地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動さん『暁光の慈悲【ヒューペリオン・ブレッシング】』!!」


クリスの光の神級攻撃魔法が完成し、光球がヤクートパンサ―の群れに吸い込まれた。


たちまち輝く光と共に、大爆発が起こった。


そして。


「……う、嘘」


「マジなの? この威力?」


「それよりリーゼ、先に俺に何か言うことないか?」


俺の不満をよそに、クリスとリーゼが感嘆していた、クリスの魔法の威力に。


神級魔法の威力は凄まじい。だが、クリスのは桁違いになった。


神級魔法も工夫や応用すると更に数段威力が上がる。その証明だった。


治癒専門の筈だったクリスの光魔法は攻撃魔法へと変わった。


いや、光魔法はむしろ攻撃向きだとも言える。火、水、土、風、光、闇、6属性の中で最も魔力の威力が上がるのが、光と闇の魔法だからだ。


そのため、長い間、闇の攻撃魔法が最強の魔法とされて来た。


クリスの光魔法は魔素を光の粒子へと変えて、それを生き物の生態エネルギーに変えて治癒するもの。


人間の本来持つ、治癒能力を数万倍にあげることで治癒する。死んだ人が生き返らないのは、死んでしまった人は既に治癒の機能が失われているからだ。


だが、俺はクリスの魔法陣を見て思った。光の粒子を生態エネルギーに変えず、光の粒子のまま光球とし、魔物に打ち込んだら? 


これはクリスが魔法の魔素のみを光球とし、打ち出していたことにヒントを得た。魔法陣を読めないクリスは、魔力の源である魔素を光球にすることには成功していたが、光魔法を発動して、光の粒子を光球と変える、攻撃魔法へと変換することはできていなかった。


いや,待て。今はそんなことを考えている場合じゃない。


俺は探知の魔法に集中した。すると。


いる……。


いつの間にか誰かが遠くの茂みにいる。おそらくは俺達を始末したことを確認するため。


俺が遠くの茂みに目を向けると。


その誰かはゴソゴソと音を立てた。逃げたようだ。

「行くぞ! クリス、リーゼ! 追いかけるぞ!」


「ええ、逃げるなんて怪しすぎるわね!!」


「はい、アル様!」


不審者の正体はわからん――だが、魔物の突然の発生と関係があるとしか思えん。


逃すわけにはいかん。


俺達は謎の不審者を追った。

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