第28話俺から逃げることなんてできないと思うのだが?

「いや……アルベルド様のやることでいちいち驚くなんてばからしいけど……」


遠い目をしながら、レオンが問いかけてくる。


「昨日の戦いも度肝を抜かれたけど……今回は魔法ですか?」


「いや……火の上級魔法をその……使っただけで……」


「火の上級魔法が使えるのですか……でも火の上級攻撃魔法一発でヤクートタイガーの群が消え去るんですか?」


「ま……結果的にそうなったな。凄い偶然が重なって」


「そうですか。はい。アルベルド様が頭おかしいレベルでおかしいことがよくわかりましたよ……」


絶対、過剰に評価されてしまっているような気がする。単に当たり処が良いとか、幸運がひたすら強くて、そのなんだ。勘違いされると困る。


しかし、これ以上何かを言っても自爆するだけなので、黙っておこう。


「アル様!」


「素敵よ。アル」


クリス、リーゼ、人前でそんなにくっつくな。胸を押し当てるな、おい!


いやいや、俺は当初の目的を思い出した。


「それより、レオン、クラウス、魔物が突然現れる事件の犯人らしきヤツを見かけた」


「なんだって!」


「本当ですか?」


「ぐうっ!?」


最後のはダニエルとか言う、例の無礼な冒険者だ。


「行こう、クリス、リーゼ、追いかけるぞ!」


「えっ? あ! わかったわ!!」


「アル様、わかりました」


俺の隣にはレオンも走っている。付いて来てくれだが、理解が追い付かず、訊ねてくる。


「一体、どういうことなんですか? アルベルト様?」


「俺の想像なんだが。いままで突然発生して来た魔物は召喚されたんじゃないかって」


そう、安全な街道に現れたホワイトハング。


街道に現れた魔の森以外で見る筈のない、キングタイガー。


そして今回のヤクートパンサーとヤクートタイガー。


魔の森から来たと考えるより、何者かによって召喚されたと考える方が自然ではないか?


この短期間であり得ない魔物の突然の発生。こんなことはあり得ない。


「そ、それは!」


「いや、確かにそれなら!」


レオンだけでなく、クラウスも俺の横に並び走って来ていた。


「おかしな気配を感じて、その後突然ヤクートタイガーが現れる場面に遭遇したんだ」


「どうやらアルベルト様はとんでもない発見をしたんじゃないか!」


「いや……それには確証がいる」


そう、俺の仮説を立証するには、確証がいる。


つまり、犯人の確保だ。


俺は探知のスキルに集中した。王都からディセルドルフへの街道を進むなかでスライムを通して得たスキルだが、何故か探知能力は神級探知スキルより高いんじゃね? て言う気がする。


しかし、相手はおそらく隠ぺいのスキルを所有しているようだ。


通常なら半径10km圏内の全ての生けるもの、全ての動向が把握できる。


しかし、今感じる気配は俺の探知距離ギリギリのラインだ。それでいて、推定距離は1kmもない。


しかし。


――見えた。


500mほど先に白いローブを着た人物がダンジョンに入って行く。

「このダンジョンに逃げ込んだようですね」


「ああ、間違いない」


俺はレオンと顔を合わせると、阿吽の呼吸で頷きあった。


そこへ。


「さっきの白いローブの男、白鷲教の信者ね」


「アル様。そうだと思います。白いローブは白鷲教の証です」


噂は本当だったのかもしれない。この処の魔物の発生の際、白鷲教の人間が必ずいる。


「とにかく、ダンジョンを進みましょう。幸い、A級冒険者が3人にぶっ壊れが1人」


「誰がぶっ壊れだ?」


「「アル(様)、いい加減自覚した方がいいわよ(ですよ)」


ぐぐっ。


俺のことを想ってくれた上の助言だろう。当然、聞き入れるべきだろう。


だが、断る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る