第7話クリスの婚約破棄1?
第一王子カール殿下の婚約者に決まり、アルとは会えなくなった。
殿下はこの国を継ぐ身で、私と婚礼を挙げた後、すぐ王位を継承することになる。
現国王は病に臥せられており。これはほぼ決定事項だと伝えられていた。
親の決めた婚約、だが特に不満はなかった。
貴族の令嬢であれば、結婚相手は自分で選ぶものではない。家同士の、親たちの思惑により決められる。そういうものなのだ。それが当たり前なのだと理解していた。
愛した人……と結ばれる、そんな自由は許されないのだということくらい分かっていた。
殿下も優秀な魔法使いだと聞いている。ならば私はこの国のため、多くの民のため、彼を支えよう。そう自分に言い聞かせて、脳裏に浮かぶ人物の顔と名前を忘れようと努めた。
カール殿下は聞いた通りの天才魔法使いだった。そして、最強の攻撃魔法、闇の才能魔法を授かり、その魔法の威力は唯一無二のもので、魔物を討ち、国民を守るために必要不可欠のものだと思えた。
彼を支え、世継ぎを生む。それが自分に与えられた責務──と、思っていたのだが。
「なんでわからないんだ? お前はただ、私の言うことを黙って聞いているだけで良い!」
「『この決定に不都合』だと? 私を誰だと思っている? 私に誤りなどあるわけがないだろうが!!」
「私は国民のために存在しているんだよ。 私がいなければ、この国の民の未来はない。お前のような『治癒魔法』しか能のない役立たずではない。私の魔法を見てもわからないのか?」
殿下は間違えている。
確かに殿下の魔法は凄まじい。だが……優れた魔法を与えられたからと言って、何もかも彼の言うことが肯定されるのは、誤りだと思う。物事は他の方面から見ると、まったく違う表情がある。殿下の正義は一方的で、客観的な視点に欠けていた。
この殿下の性格、考え方を何とかしないと、亡国への道を歩んでしまうのではないか? 暴君……彼にはその素養が見られた。そして、国王が病に倒れ、女王陛下は既に崩御されており、彼に対等に意見できるものはほとんどいなかった。
唯一、婚約者の私と第二王子殿下、王女殿下が多少なりとも、意見を言える位置にいた。
父とも相談したが、父も同じ心配を抱いていた。それで、殿下をいさめようと進言し続けた。それが民のためになればと、信じて。
しかし、殿下の性格はこれっぽちも改善されず、それどころか、より──横暴となって行った。
殿下が私に向ける視線もどんどん煩わしいものを見るようになって行き、私の立場は貴族社会で悪くなって行った。
そして、魔法学園の高等部に入学した。
第一王子殿下の婚約者……ということもあり、あからさまに敬意を向けられた。
例え、殿下が煩わしいと思っていたとしても、私には未来の女王という権威があったのだ。
貴族社会とはそうしたものだ。国王を頂点とするピラミッド構造の社会。
だが、その弊害として、貴族の子女から強い敵意を向けられている生徒が同じ学園にいた。
アンソフィ。学園唯一の平民の子にして、歴史上、例がほとんどない、二つの才能魔法を持つ『
彼女は貴族の令嬢たちから、嫌がらせを受けていた。
王家に嫁ぐものとして、当然許せることではない。貴族とは公平であり、規律を守り、慈愛と博愛の精神を持つ者であるべき。初代国王から受け継がれた言葉だ。
そして何より腹立たしかったのは『平民ごときが調子に乗って』と言い放ったことだ。
貴族が平民より立場が高いのは、魔法に優れた家系だから、と言う建前にも関わらず、二重スキルを持つ、この天才魔法使い、アンソフィに対しては貴族だからと見下すのか?
そして、ある時、アンが虐められている場面に出会した。
だが、アンの様子が変だった。ぶつぶつと何かつぶやくと、突然顔をあげた。
「貴方達貴族がなんでそんなに偉いんですか? ここは身分の関係ない魔法学園じゃないですか……!」
アンは自らを奮い起たせ、立ち向かう事を選んだ。沢山の敵を前にしても折れない心、傷付いても、なお真っ直ぐに前だけを見つめる姿は尊い、しかし ……!
「一人を取り囲んで、恥ずかしいのはそっちだわ!」
「なんですって……貴方、自分の身分を分かっているの……!?」
「生まれも身分も関係ない、そんな事で人を判断するなんて心が貧しい証拠じゃない!」
争いは加熱した。まずい、学園内に身分は関係ない。それは確かに学園規律で決まっている。
だけど、そんなの建前に決まっている。実際、この学園を出た瞬間、身分差は発生する。私は頭が痛くなった。この子は貴族というモノへの理解が足りない。
「私の友人が何か問題を? ここは私に免じて許してもらえませんか?」
平民の子、アンソフィが虐められている、まさに、その現場に私は乗り込んだ。
身分が理由で見下していいなら、相手が上位の存在の友人なら、どうするのか?
令嬢達を睨むと、皆、一瞬黙ったが、結局抗議する。
「いえ、クリス様はその娘が、今朝、カール殿下と仲良く話していたのをご存じないのでしょう?」
「そうですわ。ご存じなら、そんな事、お許しになる筈が!」
「いや、知っております。しかし、別に気にはしておりません」
「ええっ!」
「そ、そんな!」
「嘘でしょ!」
「そ、そんな……」
四人共絶句する。しかし、このままだとまずい。私への好感度は上がるかもしれないけど、アンの貴族からの好感度が下がる。友人の好感度を下げるのは良くない。
私はアンにも説教する事にした。
「アン。あなたも何をしているのですか!!」
「な、何をって……」
「馬鹿にされて喧嘩に発展するのは当然です。攻撃されて、自分が傷いたなら、受けて立つ事に問題はない。その時、傷付けられた事実をうやむやにする必要もない……だけど、この方々は貴族なの! 生まれや身分で判断する事は貴族にとって、当たり前の事なの! 間違っているのはアン、あなた方よ!」
彼女は顔色を悪くしている
言ってしまってから、しまったと思った。彼女の為、そう思った。だが、彼女は理解してくれるだろうか? 生まれや身分で人を判断する事は、平民にとって、傷つく事だろう。
当然だ。そんなの関係ないの一言で済ませたいだろう。
そんな令嬢達と一人の平民が顔色を悪くしている中、一人の貴人が近づいてきた。
「あなた達、それ位にしておいて、退散した方が良くてよ。ケーニスマルク家の力……貴族なら、当然わかるわよね。あなた達自身が言っていたのだから、身分が違うと……」
「アンネリーゼ様……あの、これは」
「王家に助けを求められても困るわよ。内戦でも起こせって言いますの?」
「あっ……っ」
そこに現れたのはカール殿下の姉君、アンネリーゼ様だった。
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