第11話貴族がゲスすぎるのだが?
「ほう? まさかこんな所でお前に会えるとはな。ハズレスキル持ちのアルか?」
俺の顔を見るなり、喜悦に満ちた声を出すこの男。名をゲリン、兄の友人だ。
無視してリーゼの方を気遣う。理由はわからんが、何故か領での俺の世話係のリーゼが殺されそうになっている。
「リーゼ。大丈夫か? もう大丈夫だから安心しろ……すまん。早く来れなくて……」
「……ア、アル様!! わ、私、必ずアル様が来てくれると信じてました!」
馬車での移動中、絶えず周りに探査の魔法を張っていた処でキャッチした悪行。
来てみれば、なんと良く知った女の子がいたから驚いた。
「最近奴隷狩りにも飽きて来たんだが……まさかのまさかだ! ここで、劇的に勇者様が現れて! それもハズレスキルのアルがな! 女神様っていうのは喜劇が好きなようだねぇ!」
「……ゲリン」
「おいっ! 気安く僕の名を呼ぶな! お前のようなハズレスキル持ち! お前のような半端者に気安く名を呼ばれる筋合いはない!」
ゲリン・ヴァ―サ。
これだけの悪行をしてこの表情。彼の人格がどういうものか、容易に察することが出来た。
「……遊びで亜人達を殺してたのか?」
念のために問う。
理あって、やむを得ないということなら別だ。最もそんなことはなさそうだが。
「当たり前だろ? 何をまるで問題があるかのように言う?」
「このような所業をして、お前の良心はなんとも思わなかったのか?」
「ウケルゥー! 何だ、残酷とか、痛ましいとかか? こいつら亜人だぞ? そんなの思うわけがないだろ!」
喜悦の笑みを湛え、楽しそうに返答するゲリン。
兄の友人だ。元々人格者とは思えなかったが、ここまで腐った人間ではなかった筈だ。
兄にしてもそうだ。俺にとって良い人間ではなかったが、幼馴染の女の子を平気で殺してしまおうとするまで、反吐が出る性格ではなかった。
全ては才能魔法という特権を持っていることと最近のカール王子の影響か。
「いいか、僕達女神様に選ばれた貴族こそが真の人間で、その亜人達は女神から選ばれなかった家畜のような存在なんだ! 家畜のようなモノを殺して楽しむのは僕たちの当然の権利なんだよ!」
「……」
「そもそも、亜人の奴隷など、生きる価値のないゴミ! 死んだ方が世の中のためだ。同じ空気を吸っているかと思うとゾッとするね。むしろ僕で処分してやっていることを誇りたい位だね!!」
「ッ!!」
ゲリンのその言葉に。リーゼはフルフルと震えながら訴えた。
「わ、私達だって生きているんです! 一生懸命生きているんです! 魔法が使えないだけで、どうしてここまで虐げられなければならないのですか? あなたと私の何が違うのですか!」
だが、ゲリンはそんなリーゼの魂の叫びを一言で否定する。
「お前ら亜人と僕たちを一緒にするなど……不敬だろう」
リーゼの叫びに対して心に何も響かないこの男。俺の怒りは頂点に達した。
そして。
「教えて欲しい、リーゼ。この人は何人、君の友達を殺したの?」
「……え?」
彼女は俺の質問の意図が読み取れず、困惑しているようだ。
「理不尽に友達を殺されて、リーゼ自身も殺されそうになっている。俺は君の友達を殺した人数に応じて、この男に相応の制裁を与える」
俺はリーゼにニッコリと笑顔を向けてこう言った。
「俺はハズレスキルがぶっ壊れてね、かなり強いんだ。だから、君の無念を晴らして挙げられるよ。さあ、コイツの罪の深さを俺に教えてくれ?」
一旦、視線をリーゼからゲリンに向けると、不敵な笑みを浮かべて見据える。
「ッ!!」
ゲリンは俺の挑発を受けて、忌々し気に俺を睨みつける。
一方のリーゼはその大きな瞳を更に大きく開いて、俺を見つめていた。そして。
「……2、2人です。2人の友達が殺されました!」
「なら、死をもって償って頂くしかないな。こんなどうしようもない非道な人間を生かしておいてもろくなことはないだろう」
俺の発言は挑発だが、ゲリンは自信満々な態度でこちらを見ている。
「まあ、アル、昔のよしみで僕が最後に大切なことを教えてやろう! お前のようなハズレスキル持ちと違って、真に選ばれし人間との格の違いってやつをなぁ!!」
「結構だ。お前からはもう十分学んだ、反面教師としてな」
以前、兄と戦ったが、その情報をコイツは知らないようだ。まあ、今の兄の友好関係なんて知らないから、単に兄とは縁が遠くなっているのか、兄が恥ずかしくて周りに言えないのか。
「うん、まあ仕方ないよね……まだ平民を殺したらマズいが、殿下はハズレスキルの平民は亜人に落とすべきだと仰っていた。前倒しで殺しても罪にならないか……うん、問題ない」
俺は呆れた。こいつもやはり王子殿下に感化されておかしくなっているのか。貴族とはいえ、意味もなく平民を殺せば罪になる。殿下の考えでハズレスキルの平民を亜人に落とすにしても、それは先の話だ。
『法の不遡及』
王都の人間なら誰もが習う法。貴族なら知っていて当然の理。
法は過去に遡り適応してはならないという大原則だ。そんな大原則でさえ、魔法が使える彼らは曲げられて当然と考えるのか?
つまり、彼は平民の俺を殺しても、もうじきできる法律で無実になると考えているのだ。
ゲリンは、満面の笑で俺を見据えて、魔法の詠唱を開始した。
厄介な相手だ。ゲリンの才能魔法は。
『神級身体強化魔法』
「【彼は女神のみまえに大いなる者となり。恐れるな、ザカリヤよ、あなたの祈が聞きいれられたのだ。喜びの声を持って女神の鉾とならん】タイタニック・グレース!」
「【我の魂よ、女神をたたえよ。わたしの内にあるものはこぞって聖なる御名をたたえよ。その者はケファに現れた女神の為】サモン・スライム!」
俺はスライムを召喚して、ゲリンは身体強化の魔法を自身にかけると剣を抜いた。
俺の持っているハズレスキル、身体強化(小)がどこまで通用するか。
だが、リーゼのために引く訳にはいかない。
これ程亜人が虐げられているとはな。身近なリーゼがこんな目に遭って、ようやく理解した。
俺はスライムを待機させて素手でゲリンに殴りかかった。
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