第12話神級魔法使いが弱すぎるのだが?
互いの魔法の詠唱を終えた俺と貴族ゲリン。
しかし、俺はスライムを使わないで素手で殴りに行った。
油断を誘うためだ。召喚魔法使いが使い魔を放置して殴りに行く訳がない。
だが、この手は大抵の魔物にも、神級魔法の使い手の兄にも有効だった。
だが。
ゲリンに急接近して、驚くも素早く迎撃に入られて、双方の中間点で激突して。
そして、圧し負けた。
ギリギリ剣を手で受けて直撃を免れるも、ゲリンは俺の初手を躱わした。
「!?」
バックステップで後ろに下がり、次の手数を出す前にゲリンの斬撃が襲い掛かる。
スピードでも、力でも圧されている。
「ははははは! どうだアル! これが僕の神級魔法の力さ! なんだか知らんが、小手先の魔道具の力で何とかしようとしても、本物の前では無力さ!」
ゲリンは俺の身体強化(小)のスキルを魔道具の力と思ったらしい。
まあ、この世界でスキルは一人一つ、スライムを召喚した俺のスキルが召喚魔法だとしたら、普通そう考えるだろう。
だが。
「どこで手に入れたかしらないが、ちょっと強力な魔道具を手に入れたからと言って、調子に乗らないことだね! 君と僕では格が違うのさ。分かったか? アル、これが僕と君との間の永遠に埋められない溝なんだよ!」
「ゲリン!」
気分良さげに話すゲリンの演説の話の腰を折って、話しかけた。
「俺は召喚魔法使いだよな?」
「はぁ?」
コイツは俺の魔法が召喚魔法で、使い魔が待機しているのを忘れているのだろう。
「……相手のことを良く知りもせず、一方的に見下げるのは止めた方いい。昔から言うだろう。『彼を知り己を知れば百戦危うからず』ってな」
「はは! 何を言うかと思えば、負け犬の遠吠えにしか聞こえないね!」
しかし、俺の言葉に耳を傾けるわけもなく、彼は勝手に勝利を確信しているようだ。
「いいか、女神は僕を選び、この力を与えたんだよ! ……ふっ、お前のインチキな魔道具やコケ脅しにもならないスライムの使い魔と違って、これが選ばれし者の力なんだ!」
「……」
「羨ましいだろう? でも残念だったね。お前は女神に選ばれなかったハズレスキルの所持者! 選ばれなかった君にこんな力はないよ! さあ、今この力で殺してあげよう!」
「ふ~ん。わかった、じゃあ俺のスライムの威力を見てもらえるか?」
「──はっ? 何を言っているんだ! スライムごときに何ができるって言うんだ! 君のような平民が僕と対等に戦おうと考えたこと自体が烏滸がましい!」
まったく、女神から選ばれたのだと? 何をして選ばれたのだ?
何もせず、ただ運で選ばれたとしか思えない力で一体この男は何を誇っているんだ?
エーリヒはハズレスキルだったけど、領地経営の天才だった。
領地の騎士団長のベルンハルトはハズレスキルでもひたすら研鑽して騎士団長にまで上り詰めた。
俺は思う、真に偉大なのは彼らのような努力で実績を勝ち取った人たちなんだと。
それを理解していないから、こんな力ずくで、一辺倒な戦い方しかできないのだろう。
もっと工夫して、相手を良く観察すれば勝ち筋もあっただろうに。
俺はゲリンの能力を見切っていた。コイツは大した敵じゃない。
俺はスライムに、こう命じた。
「お遊び程度に弄んでやれ、死なない程度にな!」
『ぴぎゃーーーーーー』
放置されていたスライムが突然一声上げるとたちまち。
「ひぎゃぁあああああああ、あぶし、あばん、あべん」
ドコドコドコ、ボクッ!? バシバシバシ!! ポコーン、ボコ……
「えええええええっ!?」
何故かリーゼが驚きの声を上げる。
「きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええ」
スライムに何度も何度も殴打されて転げまわったゲリンは最後に胸に直撃を受けて崖の方に素っ飛んで行った。
「ああああああああああ!」
バス、バシン、ドスン。
崖にぶつかったゲリンは反動で跳ね返って、こちらに帰ってきて。
「昇竜拳!!」
最後は俺の拳で天高く飛んで行って、例によって地面に落ちて大の字の形の穴を作った。
なんか、散々ほざいた癖に、弱い。
「神級魔法使いが弱すぎるのだが?」
決着の一撃を叩き込んで、俺は思わず呟いてしまった。
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