第56話王子が反乱を起こしたのだが?
カールの断罪が行われた翌日、俺達は国王陛下に王宮に招かれていた。
おそらく先日の終末の化け物討伐やダンジョン攻略に対してお褒めの言葉を頂けるのだろう。
騎士達に護衛されて謁見の間に通される。しばらく待つと陛下がおいでになった。
俺達は貴族の礼にならい、みな傅く。
「みな、顔をあげぃ。堅苦しいのは今日はなしじゃ」
陛下は玉座に座り、みなを見下ろしていたが、どこかさみし気だった。
当然だろう、実の子を追放したのだ。罪を犯したとはいえ、あたり前の感情だ。
「昨日、議会の承認が下りた。アルベルトよ、正式におまえに【賢者】の称号が認可された。本日、称号の授与を行う。おまえの仲間への褒美もできるだけのモノを用意したので受けとって欲しい」
「よかったわね、アル様」
そういうのは俺のGカップおっぱい、いや、王女アンネリーゼだ。
彼女もどこかさみし気だ。実の弟を断罪したのだ。本当の家族なら当然の反応なのだろう。
視線を移すと、第二王子エリンがいる。彼もまた、どこかさみし気だ。
第二王子エリンはカールの廃嫡により、もうじき王位を継承するだろう。
だが、その顔色に嬉色はない。やはり兄のカールの断罪が心の隅にあるのだろう。
彼はカールと違い、才能魔法には恵まれなかった。だが、人格者として有名だった。
カールの無茶な決定を何とか回避したり、虐げられた下級貴族、平民に手を差し伸べていた。
だから、上級貴族はともかく、下級貴族や平民。ようするに国民の大半からの評価は高い。
「イェスタから早く君を返せとせっつかれてな、称号授与は簡易の式になるが構わないか?」
「問題ない。あまり派手なものは好まない」
「ふっ、君は変わっているな。普通は派手にしたがるものなのじゃが」
「そうか?」
ががーん。
その時、突然、外から大きな音が聞こえた。
また、とんでもない魔物の襲来か?
王都にはびこった白鷲教の信徒の信心がたまれば、あの魔族は強い魔物を召喚するだろう。
「一体なんだ!?」
「外がおかしい!」
騎士達が騒ぎ、王に礼をすると一斉に外へと飛び出す。
「報告します!!」
帰って来た騎士が報告したのは信じられないことだった。
「カール王子が王都で多くの市民を殺害し、民の家などを破壊しております」
「なんじゃと?」
ドドーン
再び聞こえる轟音。そして、陛下もみな俺の方を見ていた。
「陛下、討伐のご指示を!」
「うむ」
陛下の顔には決意が。それは親としてではなく、国の主としての決意が現れていた。
クリス、リーゼ、ライム、レオン、クラウス、フィッシャー、ダニエルの8人で街へ飛び出す。
すると。
火の海と化した街が見えた。
そして、爆心地に向かって走り続けると。
爆炎と粉塵が舞い落ちる中。
「はははははは! アルべルト、そんなところにいたのか!!」
漆黒の剣を携えて、カールが俺を待っていた。
「お前、その剣、一体どうしたんだ……?」
俺は思わず聞いた。それほど、その剣は異質だった。
立ち上る禍々しい魔力の奔流、心の底から沸き起こる恐怖。
それが全て、カールの持つ漆黒の剣からあふれ出ていた。
「……わ、私は。ふふっふ、強いんだよ……そしてようやく悟ったんだよ。この私が世界の中心であり、秩序であると。おろかな王も民も罰が必要だろう?」
相変わらず自信満々に、自らが世界の中心だと信じて疑がわない。
この男は追放されても何一つ変わらないのか。いや、むしろより独善的になっている。
王への怒りはともかく、何故民を巻き込む?
片手に剣を携えたまま手を広げて、大げさな演技で語り続けるカール。
「さぁ教えてやろう。自分勝手な誤った判断で、いたずらに国を乱した愚か者たちの末路をな!!」
カールが剣を掲げ、魔力を高めた――その時。
「カール。俺はお前との決闘を希望する。そうでないと卑怯だからな!」
俺は宣言した。8:1は卑怯――というのが理由ではない。それだけあの漆黒の剣は危険だ。
それに、この男には根源的なことを教えなければならない。
8:1だと、卑怯だとか平気で自己弁護するだろう。それが彼にとっては真実だからだ。
「なるほど、卑怯な魔道具に頼りきって得た程度の力で、大勢で終末の化け物を倒したに過ぎない程度の力で! 随分思い上がっているようだな――いいだろう、その決闘受けてやる! その思い上がりごと踏み潰すことこそ私の義務だろうからな!」
義務だと? むしろカールが望んでいることだろう。
「アル、気をつけて、あの剣……」
「アル様」
「ご主人様」
クリス、リーゼ、ライムが俺を気遣う。それだけ、あの剣がただモノではないことを理解しているのだろう。
「任せてくれ。……あの剣の禍々しい瘴気。ただの剣じゃない。おそらく魔族がらみ。いずれ魔族とは対立する。それにカールにはわからせる必要がある」
コクリと頷くクリス、リーゼとライム、他のメンバーもうなずく。
「さあ、アルベルトよ、死の覚悟はできたか?」
相変わらず自身の優位性を信じて疑らないカール。威圧的で、高圧的。
この男にはわからせるしかない。もう、この男は最強ではない。そして、強いからと言って何もかもが許される訳でも、何もかも自分が正しいということにはならない。
何も迷わず、疑わず――何一つ考えることなく、ただ信じて疑らない自身だけの正義。
正義は力ではないのだ。正義を貫くために力が必要なだけだ。
この男は根本をはき違えている。
この男の根拠のない正義漢、根拠のない自信。
全て壊す。
「――ああ、できたが」
カールの問いへの答え。やはりカールは誤って解釈している。
歪んだ笑顔を見せるカール。俺を屈服したと信じて疑らない表情。
だから、俺はこう続けた。
「お前をみじめに倒す覚悟がな。平民のカール」
こうして、遂に堕ちた最強の魔法使いとの因縁戦いが、始まった。
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