第65話魔族の四天王を倒したのだが?
「フィッシャー、ダニエル……俺はいい臣下と子分を持った。何より一度も給料を払うことなく大義を果たしてくれたことがありがたい」
「勝手に殺さねえでくだせー」
「そうです、兄貴の言う通りですぜ。それに一番いいところが給料払わんかったところとか、酷すぎじゃあ、ございやせんか?」
あ?
やっぱり生きてた?
薄々気づいてたけど。バフ途切れてなかったし。フィッシャーの倍返し失敗も命の指輪を渡しておいたから、多分大丈夫だと思った。
命の指輪とは1度だけ死を回避出来る優れアイテムだ。貴族もさすがにこれだけは身につけることが多い。スゲー高いけど――俺、涙で前が見えません。
決して頭に金額が浮かんで辛いということはないぞ。
こうして、俺達は魔族をも退けた。
いや、俺が魔道具最初から身につけてたら楽勝だったな。
リーゼとレオン、クラウスたちだけでも勝てただろうということには触れるな。
☆
王子カールは廃人となった。討伐する必要もない。自身が信じていた母親 セシーリアの正体が魔族と理解し、完全な敗北を理解し、心が壊れたようだ。
あの男は……あまりに心が弱かった。強い精神力があれば、魔族の諫言にのり、あんな暴君のような存在にはならなかっただろう。
カールは王城の地下に幽閉された。いずれ処刑されるだろう。そのことは秘密とされた。
カールのしたことは彼に化けた魔族の仕業ということになっている。
王家としては多数の国民の命と財産を破壊したのが、カールだという事実は都合が悪いのだろう。
☆
カールを利用して散々やりたい放題だった貴族たちの罪が公正な調査の元、明るみに出た。
多数の貴族が降格されたり、領地を没収されたり、投獄された者もいた。
それ程この国は腐っていた。
俺の親父ガブリエルも貴族をクビになって平民となっていた。
兄貴のエリアスは特に罪状はなかったが、親父のおかげで貴族をクビになった。
ベルナドット家自体がお取り潰しになったのだ。領地経営に失敗しただけでなく、虚偽の財務報告で、借金を増やしたのだ。当然だろう。
王位はカールの弟エリンが継いだ。元々賢い人だったが、最初は貴族の反発が強かった。
最初はな。
その声が突然小さくなったのは二つの理由からだ。
一つは彼の施政は素晴らしく、景気も良くなった。良すぎて、先日消費税を増税した。
国王エリンは庶民の懐を痛める悪税だと嘆いたが、やむを得ないと思う。
税はマイナスの財政政策だ。過去何回もカールが消費税を増税して、その財源を元にあちこちの貴族の言いなりに金をばら撒いたおかげで、潜在的に景気が良くなりそうだったのだが、増税ばかりするので、結果的に景気は微増かマイナスか……つまりデフレだった。
だが、エリンは税金を公正にし、庶民に優しい減税を行なった。不足分は債権で賄った。
するとわずか1年で、高景気となり、今度はインフレが行きすぎた。
俺は王に進言した。正直、彼は庶民に優しすぎた。減税は彼の優しさだろう。一方貴族へは増税とした。いや、今までが優遇され過ぎていたのだ。
来年の歳入はこの好景気で増えるだろうから問題ない。それより。
俺はこのままではスタグフレーションになる可能性があると伝えた。至急インフレの抑制が必要だ。実際、この国のインフレ率は5%を超えており、危険な水準だ。
だから、消費税を増税することを進言した。
勘違いして欲しくない。どこかの国みたいにデフレの中で消費税増税するとか気狂いじみた行動ではない。
インフレ抑制には消費税導入が手っ取りばやい。将来の財源も確保できる。
まあ、将来庶民が困るという欠点はあるが、このままでは、インフレは進むが景気は後退するスタグフレーションが起きる。いわゆる悪性インフレだ。
こうなると、処方箋が難しい。
未来よりも目の前の庶民のことを考えると、こうせざるを得ない。
考えて欲しい、今年100ディナールで買えたパンが来年110ディナールになる。その次の年は121ディナールになる。更に先は? そして、そのくせ景気は後退するから賃金は増えない。
もう一つの変化。貴族たちは心の拠り所を無くした。
それは才能魔法の陳腐化。
俺たちの辺境領が販売する魔力10倍、身体強化魔法10倍の魔道具の他、各錬金術ギルドの作る安価な身体強化5倍、魔力5倍の魔道具は今では冒険者の必須アイテムだ。
そして、元々研究熱心だった冒険者達は誰でも伝説級相当の汎用魔法を使用可能だ。
それも複数の属性を一人で。
貴族達は才能魔法のおかげで、進化や応用ができない。
多分、あと数年で神級魔法が真のハズレスキルになると思う。
実際、リーゼはすでに神級魔法が遊びにしか思えないほどの進歩を遂げている。
全ての冒険者がそうなるのは目の前のことだ。
そうなると……貴族達の立場がないわけだ。
そして、エリンの施政の素晴らしさから、貴族に求められる資質が180度変わった。
そう、良き施政。それだけが貴族に求められた。
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