第21話王子カールの誤算
「は!? そ、そんな馬鹿な!? 何かの間違いではないのか?」
「いえ、間違いございません。Sクラス災害級の魔物は無事冒険者達に討伐されました」
第一位王子カールは王国近衛騎士団長の言葉に耳を疑った。
「一体どういう事なんだ?」
騎士団長の説明によると、突然、災害級の魔物がディセルドルフ近くの街道に現れ、王都へも救援要請が来た。
この国最強の攻撃魔法の使い手である、王子が最高に目立ち、名を更に広めるチャンスだった筈だ。災害級の魔物を迅速に討伐すればさぞかし民も彼に感謝したことだろう。民達は王子を誉めたたえた筈だった。次期国王に相応しい力と人格を持つと確信したに違いない。
それを。
災害級の魔物が冒険者達だけで災害級の魔物に勝てる筈がない。彼らには神級の攻撃魔法使いはいないのだ。神級の攻撃魔法を使えるのは貴族か王族だけ。
なのに、災害級の魔物が冒険者だけで討伐された。他の貴族の救援もなく。
あり得ない。災害級の魔物は貴族、それも神級の魔法使い数人がかりでないと倒せない。
一人で倒すなど、王子以外にはあり得ないだろう。
「どうなされました? カール様」
「私に触れるなぁ この雌豚あぁあ!」
「きゃあ!?」
近衛騎士団長フィーネ、女性の騎士の手を乱暴に払いのける王子。
そして、真っ黒に膨れ上がった怒りが巻き上がり、王子は思わず女性騎士の腹を思いっきり蹴りあげた。
「い、痛い……で、殿下、なぜ……」
「五月蠅い!? 黙れ雌豚がぁ!!」
「殿下、どうかおさめください。一体、どうされたのですか?」
しまった。
王子はつい本性を曝け出してしまい、ついカッとなって……誰も見ていない処でやるべきだった。
そう反省する。
慌てて、繕って、騎士フィーネに謝る。
しかし、先程注意してきた騎士の一人、騎士団長フィーネはおろか、麾下の騎士団員も冷たい目で彼に軽蔑の視線を送る。
何だ、その目は?
王子の中の巣食ったドス黒い炎が鎮まることはなかった。
いや、騎士団員だけではなかった。その場に居合わせた上級貴族以外の誰もが軽蔑の目を向けていた。
そんな中。
「兄上。お願いです。上級貴族以外の者達にも慈愛の心で接してやってください」
「差し出ましい口を聞くな! エルン! お前は上級魔法しか使えない落ちこぼれだろうが!」
「……あ、兄上」
「エルン様、ありがとうございます。お気遣いありがとうございます。しかし、私が殿下のご気分を害してしまったようです。ですので、殿下が気にされる必要はございません」
「わ、私は魔法も満足に使えず、何の役にも立たず、申し訳ない」
「馬鹿者!! 王族ともあろうものが、下級貴族出身の騎士ごときに頭を下げるとは何事だ!」
第一王子カールはその場を去ると、自室に戻り、遂に堰が切れたように怒りが込み上げる。
怒りに打ち震える王子。こんな事があっていい筈が無い、自分以外の者が災害級の魔物を倒しただと? そんなことがあって言い訳がない。栄誉を手に入れるのは私だけなのだ。
だが、怒れる彼を更に追い込むかのように部屋の外から声が聞こえて来た。王子がいるとは思っていないだろう。
「第一王子は魔法だけで、性格が悪すぎる。上級貴族は魔法の威力に陶酔して、まるでどこかの新興宗教の信者のように盲信している。正直、次期国王としては、第二王子のエルン様が相応しいと思うよ」
「同感だ。あの方は下級貴族の俺達にも気軽に接して頂ける。それに、あの叡智。あんなに頭の良い方には会ったことがない。魔法脳筋のあの第一王子とはエライ違いだ」
な・ん・だ・と・?
そんな事はあり得ん。あの男は魔法も満足に使えないカス。私と比較されるなど、あってはならないことなのだ。私は正しいのだ。故に女神は私に最強の魔法を与えられた。
「何故だ! 何故このような試練を! 私は第一王子だ! 最強の魔法を贈られた最強の魔法使いなのだ。誰もが崇めるべき英雄なのだ! それなのに、思うように動かない、みな、ぶち殺されたいのかぁ?」
彼はその場で、手当たり次第に家具や調度を蹴りつけ、殴りつけた。
椅子やテーブルをへし折っても、全然鬱憤は晴れない。
気がつくいて周りを見ると、物音に気がついたのか、使用人達が彼を傍観していた。彼に近づくと殴られると思っているのか、みな遠目で冷たい目で見つめていた。
なんだ、その目は?
「不愉快だ!? 私をそんな目で見るなぞあり得ん。この者達はどうせ魔法も満足に使えない下賤の輩だ。ただ国の一部を構成するだけの、人であって、物と何一つ変わることがないモノ。だが、私は違う、私は将来、この国の王となる男なのだ!!」
そもそも、災害級の魔物を倒せと頼んで来ておいておかしいじゃないか?
ふざけるな! 何もかもが腹立たしい!?
第一位王子の正体。上級貴族の前では決して現わさないが、彼はクズだった。
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